(大賞・文部科学大臣賞) 倦コ深月 先生 (選評)
問いの片歌 二 小さいね冥王星も人の心も
答えの片歌 「だけど」でも「だから」でもいい君が好きだよ 大原健三 東京都
冥王星と、人の心。そこにかけられた「小さいね」という言葉は、その小ささを嘆いているのか、愛おしんでいるのか、その解釈が答えに任されます。「だけど」と「だから」のどちらでも構わない、そして、「君が好き」と思い切って告白するこの歌は、問いにある「小さいね」という言葉を充分に受け止め、その上で人の強さを肯定するようなパワーに満ちていると感じました。カギ括弧を使った文体も、歌の中の声に軽やかな体温を感じさせてくれるようで、リズミカルです。
(山梨県知事賞) 三枝昂之 先生 (選評)
問いの片歌 二 小さいね冥王星も人の心も
答えの片歌 北斎の富士山波に飲み込まれたり 山本町子 兵庫県
小ささにどう反応するか。そこが問われているのですが、この答の片歌はなんと、日本一の富士山が波に呑まれるわけです。あの富士さえも波に呑まれるてしまう。そう読むと冥王星も人の心も富士山も、小ささのオンパレードになります。しかし波の方に焦点を合わせると、日本一の富士山をも呑み込む大きさが印象づけられます。つまり大きさは小ささであり、小ささと大きさは紙一重といったニュアンスが答からは浮かんできます。そこがこの答えの魅力なのです。もう一ついえば、今年は富士山が世界文化遺産になった年ですから、その目出度い機会を生かしたセンスも感じられます。
(甲府市長賞) 宇多喜代子 先生 (選評)
問いの片歌 一 ふるさとの深き眠りの雨の日曜
答えの片歌 持ち物は歯ブラシタオル古い本だけ 勝俣麗奈 山梨県 山梨県立富士河口湖高等学校
まず、この答えのいいところは、問いの湿り気の多いことばをカラッとかわしているところです。
「歯ブラシ」と「タオル」というごくごく普通のモノ、これだけで感傷的な気分を払拭します。ところがここに「古い本」が重なりますと、オッと思わせます。「新しい本」だと、ややいい子っぽくなり過ぎます。
軽さが出てとてもいい答えでした。
(山梨県教育委員会教育長賞) もりまりこ 先生 (選評)
問いの片歌 四 夏の蝶あしたにつづく道を教えて
答えの片歌 木漏れ日を浴びて祈りが輝いている 水野真由美 神奈川県
風のゆらぎにあらがわないように、舞っているように見えた蝶も、この片歌に出会えたことで、ままならないすべてのものを包んでしまうおおきなものへと化身した世界が描かれています。蝶を生き物としての蝶と捉えるのではなく、祈りの象徴として木漏れ日を浴びている姿は、たとえば映像として想像することを越えた所に存在している、言葉にしか出来ない表現を獲得しています。蝶に託されたのは、いまの時代に通奏低音のように流れている〈祈り〉の形。問いの片歌と呼応したリズム感に満ちた、読む人々のこころにまっすぐに届く力強さを持った作品です。
(アルテア賞最優秀・山梨県教育委員会教育委員長賞) 今野寿美 先生 (選評)
問いの片歌 二 小さいね冥王星も人の心も
答えの片歌 大きいよ近くでみてよ心でみてよ 風間彩花 埼玉県 行田市立西中学校
風間彩花さんもストレートに「大きいよ」とまずは反論態勢ですが、加えて「近くでみてよ」、さらに「心でみてよ」とたたみかけ、一所懸命の印象が可憐です。込められた主張もそのとおりであって快く、むだがありません。たしかに何事も近くでよく見てから判断しないといけませんよね。さらに「心でみてよ」は大いに泣かせるひと言でしょう。ふと大切なことに気づかせてもくれるようです。ここまできちんと述べてぴしりと収めた明晰さ、中学生の感度のよさに感心しました。すばらしいと思います。 |