その八二


 

 




 







 





























  とんでゆく ぶんとみじかく 虹のたもとへ  

あわいグリーンのカーテンをしゅっと引くと
とつぜん、羽音がした。
わたしの目の前を横切って
もうひとつの小さいカーテンのほうへと
移動した。

きのうから行方がわからなくなって
しまった、一匹の蜂だった。

どこを探してもみつからなかったので
もうどこかへいってしまったんだろうと
もやもやとあきらめてはみたものの
ベッドに入ってもなかなか眠くならない。

眠りこけているあいだに
刺されてしまったらどうしようと
思えば思うほど なんかおちつかない夜になってしまった。

わたしは甘い匂いをかもしだしたりして
いないから
きっと大丈夫なはずだと
言い聞かせている間に寝入ってしまっていた。

こんな冬のさなかに蜂のことばかり
かんがえているなんてどうかしている。

蜂の夢はさいわいに見なかったのだが
かわりに海の夢をみていた。

大きな波があっちからやってこようとしていて
わたしともうひとりのひとだけが乗っている船上の
ふたりはふりかえりながら波が来るねと
待っているところで目が覚めたのだ。

翌朝、レースカーテンとのあわいから
蜂が飛び立つ不思議をおどろきながら
見守っていた。

行かなければいけない場所を失ってしまった
蜂はカーテンの中で一晩中を
すごしていたのだ。

わたしが、不安と恐れとがないまぜになった
海の夢をみていたあいだ
おなじ場所に蜂は息をひそめていたんだなぁと。

あたたかな陽射しの中へと蜂は旅立っていった。

むしょうにきらったりわけもなく
こわがったりしたことを
すこしわるいなぁと思いながら

それでもなんだかすがすがしい土曜日を過ごしていた。
       
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