その一〇〇

 

 

 





 






 

















 

渋滞が ループ描いて とけてゆく日々

夜のコンビニの帰り
信号待ちをしていたら
反対車線から一台のバスが
走り抜けていった。

十五夜も少しすぎて、台風も
近づいている頃だったので雲の色が
シソジュースを何百倍にも
希薄したようなとろんとした空の色をしていた。

そんなまわりのうすぼんやりとした外灯に
浮かび上がるそのバスの車内は
ネオンを抱え込んでるみたいで、とても妖しい。

いつもお世話になっているバスなので
Fという駅迄の道のりも分かっているのに
二、三人しかいないお客さんたちが、
このバスがとくべつな場所へと向かっているのを
承知で乗っているようなそんな顔つきに見えてきた。

いいなぁ、あれ乗りたいってふいに思っているうちに
バスのお尻が流れて、しずかに、そして駆け抜けるように
素早く次の停留場へと去っていった。

深夜のものはなんでも好きなのだけれど
夜のバスっていうのはけっこう好みだなぁと。

時間軸のレールの上を何ミリかはみだした
錯覚の中に住まわせてくれる懐の深さみたいなところが
やつにはあったのかと。

どこかへいってしまいたいと思っているとき
もうきっとからだもこころもどこかへ
いってしまっているんだと思う。

でもうっかり冒険した気で乗り込んでみても
いきたくてしかたのなかったどっかへは
連れていってくれないってことを知っている。

なのにまたいつかあの夜のバスに乗りたいって
じわっと思うんだろうなぁ、
夜のコンビニの帰りなんかに。

       
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