その一〇五

 

 

 




 







 


















  冬の月 つかまえたいと こころが走る

黄色いテーブルクロスに白いシンプルな
お皿の相性がいいパスタ屋さんで
おいしいピザを食べた。

緑色のジェノバソースがたっぷり乗った
かりかりのピザだった。

松の実がたくさんちりばめられていて。
あぁわたしの好きな松の実だって思うと
おいしい、銀座、ジャズのかかっていたお店
っていう絵が浮かんできて
一枚のピザが、わたしをちょっとむこうへと
連れていってくれたみたいな感じだった。

そのときわたしは向側に座っている年上の人から
南の島に彼がアルバイトに行った時に
好きになった女の人の話を聞いて。

おまけに初恋のことまで聞かせてもらったり
した。

その人の温かい話を聞きながら
ちゃんと初恋のことを覚えているって
年齢を経た時のなんていうか突然の
贈り物のような経験なのかもしれないなぁと
思った。

そして子供も大きくなったので親子でジャズを聞ける
ようになって面白いよと彼は云った。
どさくさに紛れてなんとなくチェット・ベイカーが
好きなんですってわたしも云ってみたら、
甘ったるい声が好きなんですね、とすこし微笑まれて
そうかああいうどこもみな辺りをなぞってゆくような
歌い方を甘ったるいって云うんだなって、
酔った頭で納得しつつそれよりもなによりも
男同士の親子っていいなぁと
単純に思っていた。

でも正直云うとなんとなくわたしは瞬間的に
その人の娘さんになりたいと思ったのかも知れない。

その時に飲んでいたお酒の味は忘れてしまったのに
その日相槌をうつように食べていた松の実の味だけが
記憶にしみついてしまった。

食べることって、いっかいずつピリオドではなくて
とぎれとぎれでも、ちゃんと連なっているもの
なんだなぁと思う。
音楽で思い返す時ほど激しくはないけれど
味に想い出がくっついているときの思いだし方は
ちょっとゆるやかでのんびりしている感じがして
じぶんに合っている気がする。

今年も大事な人たちが
ちゃんとおいしく食べて飲んで
こよなく健やかでありますように。

2005年も「うたたね日記」をどうぞ末永くよろしく
お願い申し上げます。
       
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