その一一二

 

 

 





 


P
U
L
L
T
A
B
 


















 

聞くだけで いいからほんと みないで聞いて

紙コップにちっちゃな穴あけて
糸をつないで、糸電話にする。

つたってくるもの。伝わるってどういうこと
なんだろうって考えていたら
ふと小学生の時の糸電話のことを
思いだしていた。

理科も算数も社会もだめで
学校はどっちかといえば好きでは
なかったけれど、でも理科とかの
実験のある日は妙にわくわくしていた。

男の子だったか女の子だったか
たぶん女の子だったと思う。

わたしの耳を覆う紙コップにつながる
糸の先にいたのは。

そのときわたしの耳にくすくすっていう
笑い声がすぐそばでくぐもったような
エコー効かせたような音で聞こえてきて、
なんてくすぐったいんだろうって
思ったことだけは覚えてる。

そばにいないのに糸を伝わる声は
じぶんいじょうに近くにいる人の声みたいで
ほんとうにふしぎだった。

あの感覚はおとなになるとなかなかないな
なんて思いながら、伝わるって
あれみたいなことなんだろうかと
思いめぐらしてみる。

からだのなかのちいさな細胞が
しってるよこの感じっていってるみたいな
そんな体感こそが伝わるってことなのかなぁと。

なにかがだれかにつたわるって
耳もとで囁かれたそんなちいさいころの
感触と似ているかもしれないって思った。

家の前のスクールゾーンを通る小学生を朝みかけた。
雨が降っていたので、右手には黄色い傘をさして。
よくみると左手には虫かごをもって
濡れないようにしながら
いっしょうけんめい歩いていた。

ただそれだけだったのに、前向きな足取りに
まいってしまって、その背中をちょっとだけ
見送りながらそうそう彼はもう
糸電話とかしたかな?って。

ほそいなにかをつたってどこからかやってきた
こんな脈絡のない感情に
朝からつかまってしまっていた。
午後からは晴れるといいなとなんとなく思いながら。

       
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