その一一九

 

 





 







 























  あれはなに 月に向かって 問いつつ歩く 

海岸の側のスパの中の雑貨店でみつけた
パワーストーン。
ちいさなカップに詰め放題って
書いてあって、私はせっせせっせと
しゃがんで石を詰める。

なんとなく金魚すくいとかヨーヨー釣りを
してる幼い頃の夏祭りの気分で、楽しい。

いっしょにもらった石の説明書には
<石に願いごとを打ち明けましょう>って
書かれていて、母とふたりで笑った。

うちあけべたなわたしとしては
生身じゃない石ぐらいになら
うちあけられそうな気もするのだけれど。
でもまだなにもうちあけていない。

そもそもうちあけたいことは
私にはもともとないような気がして
日々、ふらっとな思いで過ごせますようにと
それだけお願いした。

枕元の右側には原石のくっついた
ごつごつしたアメジストを
左側にはつるつるのラピスラズリや
セレナイト(月光の石)など
カップいっぱいのパワーストーンを
並べてある。

そのせいなのかわからないのだけれど
昨日、近くの本屋さんで、昔、心配そうに
している私を大丈夫という温かい言葉で
励ましてくださった方を
6年ぶりで見かけた。

立ち読みしていたコーナーの通路あたりに

なぜだか 私は気配を感じて振り向くと。
深緑色のTシャツでゆるやかな歩調で
歩いていらっしゃる人がいて。

はじめは見知らぬ人だと思ったのだけれど
通り過ぎてゆくその姿を視線で
追いかけながら、
横顔に見覚えがあるって
思ったのでした。

私は読みかけの「天国の本屋さん」の
扉を閉じて、

その人の横顔をスローモーションのように
みながら、こころの中でゆっくりとあいさつした。

お元気そうでなによりです・・・。

階段を降りてゆくその背中が見えなくなるまで
同じ言葉を繰り返していた。

すがすがしいきもちはこんなふうに
突然訪れるものなんだなぁって。

かつて8月に出会った人と
同じ季節に出会う不思議を思っていたら
夜中すこしだけ微熱がでてしまいました。
       
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