その一二六

 

 





 






 
















 

ざわめきが はじける雑踏 なくしたひとり

10時35分のF行きのバスに乗り
タラップを2段あがって
左側の4番目の手すりに右手を添えて
肩から背中は一本のバーにもたれさせて
「夏の家、その後」っていうドイツの
新進作家の短編集の22ページを読んでいる。

その主人公20歳の「わたし」は100年以上前の
ロシア製の珊瑚の腕輪をしている。
彼女の曾祖母のせつない物語を、腕輪と共に
譲り受けてしまった「わたし」は、じぶんの
ことに興味の持てない恋人がいる。

恋人は10歳上で、週に2度セラピストの
ところに通っている。
物語の中からいちはやく抜け出して
先へとすすみたい「わたし」は「わたし」が
抱える曾祖母をとりまく物語を恋人に語りたがっている。

恋人が通うセラピストの元へと足を運んだ「わたし」は
話したかったことばを見失ったまま、焦燥し
沸点に達した彼女は腕輪の糸を引っ張り
675個のちいさな珊瑚の球を
辺りの床にばらまいてしまう。

はじけてきらめいて。

たくさんのイメージが飛び交いながら
わたしは駅につく。
たくさんの数字に囲まれながら
ページをめくっていたことに気づくのに
頭の中で想像していたときには、どの数字も
イメージに置き換えられていて、風通しがよくなってる。

日付けとかラッキーナンバーとかはじめて逢った日とか
別れた日とか、電話をもらった時の時間とか
日常の数字に惑わされて仕方ないときは
こういう物語みたいに、まぎれさせてしまえば
いいんだと納得する。

納得した途端あぁきょうは11月28日だなぁと
時間をあともどりさせながら
うれしかった一通のメールのことを
思いだしたりしてる。

       
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