その一二八

 

 






 







 
















 

知らぬ間に かけがえのない なにかを包んで

坂道をくだってくだって
ちょっと加速つけてみようと
小走りにおりてゆく。

左には高校の校舎。
グラウンドでは時折
のどいっぱいに声はりあげている
男の子たちの声がしてる。

まっすぐなえねるぎー。
いいなぁと思いながら
今日は見えますようにと
軽くお願いしながら左を見ると富士山。

頂きは雪をかぶってる。
ここにはまだ雪がふらないのに
富士山はとっくに雪をまとって。

とんとんとんとんと木々の
トンネルぬけて、材木屋さんの
木の匂いを胸一杯にすいこんで
コンビニ抜けてたどりつく。

2度目のやさしい先生に会う。
先生はにこやかによかったですね
よろこんでくださいと血液検査の結果を
わたしに云う。

どっかがいつのまにか
壊れてたのかと不思議なきもち。

数値が正常範囲にもどってますよ。
うーん信じられない話なんですよね
たかだか一ヶ月でこんなに快方に
向かうと云うことが。

先生は解せないんだということを
上品なたたずまいで説明してくれる。

ひとつだけ考えられるとしたらなんらかの
みつからない疾患があって
この一ヶ月に完治していたとしか
いいようがなくて、原因のようなものを
申し上げられないのがほんとうに
申し訳ないんですがと。

先生はとっても申し訳なさそう。
そして、ふにおちない表情がにじんでる。

診察室は太陽がいっぱい差し込んでいて
はれーしょん起こしそうな先生の白衣。

先生のことばがどれも予想のつかない場所に
おちてゆく。ぜんぶを拾い損ねてわたしは
この一ヶ月あたりに身に起こったことを
辿るのだけれど、変化をみつけきらない。

前髪をじぶんで思いきり切ったり、
展覧会などに行き捲って
立ち止まってしまいたくなるくらいの
音楽に出会ったり
好きだった知らない町で迷子になったり
おおよそ血に関係のないことばかりしか思い付かない。

細胞は知らぬ間に変化し続けていて
この変化の行く先がわからないことが
呼吸しているということの証なのかと。

なんだか解き明かせないままに過ぎてしまったことが
多すぎるなわたしに似合った結果でした。
せめてじぶんのからだぐらいはここでなぞときを
したいもんですと、
大腿に問いかけてくる坂道をのぼってのぼって
木々のトンネルの中を通り抜け
まだそこにくっきり輪郭鮮やかな富士山を
目にやきつけて、わからないまま
じわりとあつい雫を落として。

       
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