その一四三

 

 






 






 







 

ゆきずりの ぺしゃんこたちが 風はらむとき 

湿った風であやふやにしか乾かない
洗濯にアイロンをかける。

しゅわしゅわとした綿が熱のせいで
ぴしっとなにごともなかったかのように
平らかになってゆく。

雨がふったりやんだりの日が続くと
アイロンがけが夕食前の日課になる。

なぜだか小さい頃から好きで
やけどしなさんなよとかいわれながら
緊張しながら温度設定をして
かけていたことを思い出す。

さっきまで折れ目やこまかい窪みが
素材に浮き上がっていたものが
うまくアイロンで押さえると
まるでゼロリターンにもどったみたいに
フラットになる。

なんかこの作業のプロセスの中には
なにかを浄化してくれる作用があるみたいに
一瞬心地よくなる。

その刹那アイロン台の上のシャツは
ほんとうにぺしゃんこでまるでもともとは
ただの布でしたって感じにみえてくる。

さっきまでは平気だったのに死んじゃったみたいな
空気まで携えて。

すこしがらんどうな気持ちになりながら
身に纏うものはこうやってぺしゃんこなものから
誰かが身体をくぐらすことで生き生きしてゆく
ものなんだなぁとあらためて思う。

体温を持った人が着ているからこそ
その素材やデザインの美しさが
引き立つのかもしれない。

アイロンをかけ終わったシャツに掌で触れると
ほのあたたかくてまるで人の体温みたいだと
ほんのすこしだけぼんやりしたくなっていた。

       
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