その一五八

 

 






















 

からだごと うそかもしれない 湖面がゆれる

部屋の温度が低くなったせいで
ポットの中のはちみつが金色のまま
かたまってしまっている。
すこしあたためると、ゆるやかな
とろみをとりもどす。

あたたかくするとちゃんともとに
もどる性質はなかなか好感がもてて
いいなと思う。

ついこの間わたしは電話口で業者さん
相手に怒りモードがふつふつと沸き起こって
しまい、とてもいやな口調で喋ってしまった。

電話を切った後、なんだろうこのどこかを
突き破ってしまいたくなる感情はって
思いながら、ずいぶんひさしぶり誰かに
怒っていることに気がついて
ここのところどういうわけか
ずっとおだやかな気持ちのまま
過ごしていたことを改めて思った。

暖房機具のリモコンをオンにして部屋を
暖めても食事をしてからだが温かくなっても
そのふつふつはおさまらず、翌朝まで
最悪の条件を考えて途切れ途切れにしか
眠れずに、朝を迎えてしまった。

翌日のお昼頃にその案件はあっさりと
解決したのだけど、やっぱりポットの中の
はちみつのようにあたためても
もどれなかったじぶんのちっちゃさに
反省をほんのひと雫ぐらいしてみた。

とつぜんだだっぴろいところにいきたいなと
思った。広さに気圧されてしまうような
そんな場所にときどき憧れる。
もう何年も前、はじめての土地でドライブを
楽しませてもらった後、車がとつぜんすっと
長いトンネルに入った。
いつこのトンネルを抜けるんだろうと思った
刹那、出口にかかったところで私の目の前には
見たことないぐらいおおきな富士山が飛び込んで
きたことがあった。

とてつもなく大きいものにおもいがけなく
出会って、私は景色に参ってしまうという感覚を
はじめて知った。
あの時はとても弱っていたせいもあって
サプライズなもてなしをしてくださったことが
ほんとうにうれしかった。
あんなにでっかくはみえないけれど明日にでも
有隣堂とヤマハの音楽教室の間を繋ぐ大きな
ガラス窓からみえる富士山に逢いにいこうかなと
思ってる。
とてつもなくおおきくて遠いものを眺めてみたい。
そんな気分の今日でした。

       
TOP