その二〇七

 

 







 






 







 

むきだしの 滝あびながら 空耳を聞く

長方形に切り取られたゲートをくぐると
青い光の蛍光色がブラックライトに
つつまれている。
蛍光色の灯りの中に染まったのははじめての
体験だった。

青くそしてあやしく密やかに光る世界に身を浸していることに
静けさが足下から沸き上がってくるようで
どきどきしながら絵を見た。

からだの前に流れている。
わたしの右にも左にも流れている。
そしてみていないときでも背中側に感じる滝。

すさまじい力の限りでおちてゆく滝の絵を
目の当たりにして、滝にみちびかれみずからすすんで
そこへと歩をすすめたくなるようなふしぎな引力を
そこに感じていた。

ふとみると。絵を鑑賞しているひとたちもみな青く染まりながら
歩いている。
照明のせいなのはわかっているのに、歩いているひとたちから
体温も血もなにもかもが奪われていて、あたらしい生命体として
あらたにその場に誕生しているかのようにみえた。

水の流れ落ちてゆくさまが描かれている一枚の絵の前に立つと
過去からどこかへと辿ろうとしている水の時間が
重力にあしらわれながら落ちてゆく。

画家は熱帯雨林の大自然やイグアスの滝の放つエネルギーに
圧倒されて一気に描きあげたという。

たえまなくほとばしり続けるしぶきを浴びたような
感覚にとらわれながら、ふといちまいの絵のまん中あたりを
じっとみた。
白い水煙をあげている滝と滝のあわいにぽっかりと空間が見えた。
あのなにもないようにみえるところにこそなにかがある
なにかが生まれてくる空間にみえてきて、胸がざわざわする。
滝だけをみていた目が滝のないいわばまぬがれた場所に
くぎづけになってしまった。

散ってちって、くだけて砕けて、しんでうまれて
またあたりへとしぶきをはなってとけてゆく。

それはいま思いだしてもありありと浮かんできて
ことばにするとすればちょっとした洗礼を受けた気分だった。

       
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