その二一六

 

 






 







 







 

葉脈が 透けてゆくまで ねむっていいの?

いつの誰の言葉だったかも忘れてしまった
けれど、花は朽ちてしまってからがやっと
じぶんの側に近づいた気がして安心する
って云っているのを聞いて、おんなじこと
思っている人がいるんだなぁって、目の前に
光が射したような感覚になったことを
覚えてる。

たぶんそのとき隣にいた人にその話を
したとき、それおかしいよ咲き誇ってる時が
いちばんうつくしいよ、ちょっと斜めすぎるよ
その見方って云われて、すこし心の中で
むきになった。

その後好きになった写真は、アラーキーさんの
バルコニーで朽ちてゆくほとんど化石に彩色
されたような一枚だった。

ほんと誰のことばだったんだろう。
いきいきと鮮やかに色を放ってるときは
少し生々しくてよそよそしいのに、
テーブルの上の薔薇も花びらが色褪せてゆくと
妙にそわそわと馴染んできたみたいでうれしく
なるのだ。

そんな思いがどこか胸の奥で溜まっていたのか
今年はじめて、押し花を作ってみた。

最初はばらばらにするのが、抵抗があったのに
いまは花びらいちまいいちまいを顎や茎の間から
はずすとき、ふっとそこに間ができたような
解き放たれた感じがする。

手帳やぶあついシネマブックの間にはさむ。
そして次の日あたりにあ、あの花びらは
どうなっただろうっていちにちのおわり
あたりに確かめるためにページを開くのが
楽しみになった。

きのうの今日だから、まだまだみずみずしい
のだけれど、それでも花びらいちまいいちまいが
表情をもっていることに気づいて、いとおしくなる。

黄昏れてゆく花をみていとおしいなんてすこし
恥ずかしいけれど、朽ちてから親しくなれるような
そんな楽しみ方もあることを知った。

ありがとうでもあるし、おつかれさまでも
あるけれどこれからもよろしくねってあいさつが
引き寄せられてゆくような。
こんな夜中もきっとひっそりと葉脈を浮き彫りに
してゆきながら、ページのあわいでひっそりと
透明になってゆくことを思った。なんだか
その風情はこのうえなくずるいおーらで
いっぱいだった。

       
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