その二一八

 

 






 






 








 

ずれながら なまえをよぶよ うっすらつめたい

八十歳になった頃、とつぜんカンヴァスに
向かい合うようになったアボリジニの画家、
エミリー・ウングワレー。

いちどテレビで目にしていた<ビッグ・ヤム・
ドリーミング>という黒と白の世界は
ちゃんと目の前で体感したいなって思っていた。
遠くからみるとまっしろな縒りのしっかりした
コードをそのままカンヴァスに
はりめぐらしたように立体的にみえるのに
近寄るととてもフラットにもみえて
じっさいはどんな感じがするのか
確かめてみたいと思ってた。

他の作品も、色彩がにじんでいるようにも
みえるのにドミノ倒しのようにどこかが
触れただけで、ずずずっと傾れ込んだり
しない、いっこの色としてちゃんと大地に根を
張って立っているイメージの力強さを
感じていた作品のかずかず。

彼女の展覧会のレポートを作家の
いしいしんじさんが書いていらっしゃってて、
ふいに気になるなまえに出会う。

点描画<蔓植物の実>に出会った時、
いしいしんじさんは、雨の音を感じたらしく
オーストラリア土産にもらった
レインスティックを思い出したと記されている。

それはアボリジニが雨乞いの時に使う
楽器らしく、1メートルぐらいの竹の棒の
中に、植物の種や実が入っているのだとか。

すこしかたむけると中の種や実がこすれあって
雨音のような音を鳴らす、レインスティック。
みたことはないけれど、その文章を目で追った
途端、想像の中ではとてもしっかりした輪郭を
持ったわたしだけの楽器になってしまった。

ざざざなのかざらざらじゃりなのかよく
わからないけれど。
乞うっていうよりも雨が恋しいときにそばに
あるレインスティックを鳴らして雨に逢いたい
と願ってるみたいな音色を想い描いてみる。

なにかを空にむかって呼んでいるような
てんとてんのあわいのすべてみたいなものが
すこしぽつりとおちてくるような
ずっと太古にしっていたような気持ちに
なっていた。

       
TOP