その二三四

 

 







 






 
















 

そのわけは 聞かないでほしい 知らないのだから

洗濯物をとりこんでるときに
となりのおうちの歌ちゃんとお友達が
遊んでるのが見えた。

なんだかひそひそと声だけ聞こえる。
彼女の家のガレージをみると
開いたままのいろとりどりの傘が
みっつほどコンクリートの上に咲いていて
歌ちゃんたちはそこにいた。

昨日雨が降ったから、干してあった傘だった
のかもしれない。
彼女達はそれをちいさな家に見立てて
肩を寄せ合って生きている家族のように
ちいさなおしゃべりを楽しんでいた。

傘の下の住人をみて、なんだかきゅっと
こころがなつかしい匂いのする場所へと
おりてゆきたがってるのを感じた。

大好きな映画監督小栗康平さんが語って
いらっしゃる番組でとてもすてきな
話を耳にした。

外の動きなんでどうでもいいじゃないですか。
外だけが動いていて心が動かないことが
動くってことじゃなくて、ほんとうに動くとは
こころの中が動くことでしょう、と。

静かな語り口をそのまま聞き逃さないように
しながら、いつのまにかすんなりと緊張が
ほぐれるように腑に落ちていた。

いいなそれっていう言葉を聞いたり
おもいがけないリアクションがあったり
ある風景にたちどまりたくなったりって
それはたぶんぜんぶ、相手からなにかを授かっている
っていうあかしなんだなって思った。
授かった瞬間にこころが動いて、名付けられない場所が
鳴るようなあの体験は、なくしたくないなってことしも
あとわずかないまそんなことをせつに望む
じぶんがいた。

       
TOP