その二三七

 

 





 






 



















 

墨色の 空になるまで たどってたどる

今年になってはじめての書道教室にゆく。
先月はいろいろなことがあってお休みして
しまったので、すこしだけひさしぶりの顔に
会う。

暖まった空気の漂う部屋の中を
にぎやかな話し声と、ときどきふしぎなリズムを
刻む音楽がいったりきたりする。

休み明けに学校に行くのが楽しかった記憶なんて
ひとつもないのに、この場所だけはちがう。
おとなになってから学校を行き直しているような
感じなのだ。
なつかしいななんて思う。
人が音がちゃんと動いているここちよい騒がしさが
すこしばかり恋しかったのだと気づく。

ひさしぶり各グループでワークショップをする。
<玄>っていう字の楷書と、
<心>っていう字の創作のリレー書道。
一画ずつを順々に書いてゆく。
誰かが書いた一画に続けて二画めをわたしが書いて
わたしの二画目のあとを引き継いで次の誰かが
三画目を書いてゆく。

楷書の<玄>っていう字の時は、ともかく、
創作の<心>にみんなで挑み始めたとき
前に座っていたGさんが、なんだか奔放に
半紙の上でスタンプのようになにかのキャップを
ぽんぽんと墨色を重ねて遊び始めた。
その行為をみたとき、ぱつんとなにかがはじけて
わたしはその解き放たれてゆく彼のゆびの動きに
伝染した。
彼のそのあけっぴろげな心の一画目のバトンを
手渡されて、じゆうであるということもわすれて、
いみもなにもないまま半紙の前で泳いだ。

むちゅうになってることにもむじかくになって
しまったせつなふいに気づいたのだ。
だれかといっしょにいる半紙のまえでは、
なにもはずかしくないなって。
ひとり半紙に対峙していると、それはちょっと
おおげさにいうと荒野なのだけれど
彼のほがらかな表現のお陰で、なんかわからない
ふれーむだとかまくだとかそういう目に見えない
まわりにはりめぐらされているとおもっていた
何かがとっぱらわれたのだ。

そんなふうにしてできあがった<心>は、
ひそかに3人がもちよった墨をにじませた
<心>になっていた。
いえないけれど、なにかしら漂っている思いが
偶然たちよりましたって感じでたたずんでいた。

どうみたって遊びなんだけれど真剣にあそぶと、
胸の中にすずしい風がふいてゆくみたいで
きもちいい。
もうすこし遊んでいたかったのにっていう手前で
筆を置く時のあとをひく感じを味わいながら
ますますわたしにとってここはしんぷるな
かけがえのない場所になってゆくんだなって
思っていた。

       
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