その二五三

 

 





 






 






















 

ばさばさの ばの正体 雨ハナミズキ

大きな硝子窓の部屋にいて
だんだん暗くなってきた空がそこに
映し出されていた。
いっしょにいた人たちと、一雨きそうだねって
いいながら、作業に専念していた。

しばらくすると、ぴかって光ると、すこし近い場所で
雷が鳴った。
鳴ったと思ったら、植栽のどれかにぶつかっているのが
ばさっ、ざぁっといきなり雨がふってきた。
いろんな人と部屋の中にいて、雨に降り込められてる
経験ははじめてだったので、そこでやらなければいけない
作業もそこそこに、なんとなく気分はそわそわしていたのだ。

いっしょにいた女の人たちも、やだねーやな音って
いいながらも、ちょっと楽しそうな声だった。
こういうのむかしよくあったなって思ってたら
学校の放課後のことが思い出された。

あんまり降りがひどいので、教室の中で雨宿りしながら
どうでもいい話を誰かの机におしりのっけて、スカートの足
ぶらぶらさせてみんなでわーわー喋る。
帰り道あたりで、わすれそうなことばかりなんだけれど
そうやって、みんないまだけは同じ場所で雨やどりっていう
その時間がやたら楽しかったような気がする。

その日もそんな感じの午後だった。
部屋の中は、空のしずんだ色が床や机ににじんでゆく。
傘のない人は帰るに帰れないのに中にいる人たちは、
いつもとちがうテンションで
妙に楽しげだった。

雨の音が、線になって目にうかぶような感じで
ざんざん部屋の中に響いてる。その空間がとても
晴れやかだったので、後ろ髪をひかれる思いもしたけれど
待ち合わせの時間も迫ってたのでそこを後にすることにした。

頭上では、雷が鳴っていた。
傘は、なくてもあってももうどっちでも
同じかもしれないっていうぐらい、足下から
びしょびしょになった。
雷といえば、わたしの敬愛するアーチストの方が
たとえば、ランニングしてるときなんかに
雷なってるとやる気が出る。俺の下に落ちてみろって気分に
なるって語っていらっしゃる文章をよんだとき、
なぁんかこのひといいなぁ
すきだなぁって思ったことがあった。

尋常じゃない雨が降って、雷ががんがん鳴って。
それが窓の内側と外側ではかなり印象も違うってことを
雨の洗礼を受けた後、電車に飛び乗りながら思っていた。

内側にいるときの雨は、うまくいえないけれど
なにかたとえばとりかえしのつかなかったことを
思い出してしまい、それがこころとか内部とか
中へ中へと沈潜してしまう感じがするけれど。


この間、まさに窓の外側にいたときの雨は、
ローシューズも泳いでる感じだったのに、
なんとなくタガが外れてる感じっていうのか
なんだかきゅっと閉じこもっていたものが、
ぱん!ってはじけた気分だったのだ。

小さい頃経験した雨降りってそんなに好きだったっけ?
って思った。雨靴に雨が入って気持ちわるかったことや
定期券や回数券がぬれてへなへなになってたこと。
水たまりをみつけて、じゃんぷしたくなるようなこと
あんまりした覚えはないけれど。
子供の時がこんなに遠い昔になって、雨にうたれるの
わるくないなって思ってるじぶんにすこし驚いた。

雨の日。
黒いランニングスーツに身をつつんで金髪
ふりみだしながら坂道を駆け上ってる
アーティストの方のシーンをちらちらと思い出す。

雨って身体にふれたとたんに、気持ちにたちまち重大な
化学変化を起こしてしまうものかもしれないな、と。

       
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