その二七一

 

 



















 























 

汀から そっと離れて ゆれてしんじて

<おおきなカゴをひとつ用意して
そこに好きな物を入れておくといいよ。
じぶんのすきなものがわかるから>。

そんな文章を読みながら、そのページの中ほどの
写真を見ると、透明のガラスケースの中に
つまっているたくさんのエアメール。

古い雑貨屋さんのような不思議なお店を
営んでいるらしいそのお店のファンの方からの
手紙の束は、色とりどりの異国のスタンプも
押してあって、知らない人の顔写真みたいに見える。

無造作にガラスの中でひしめきあっているむきだしの
手紙を見ていたら、その店主の方がていねいに
過ごされている日常を垣間みたみたいで
ほくほくした気もちになった。

あと、わたしの好きな絵本作家の酒井駒子さんの
四角い靴の入っていた箱には、たくさんのレースが
ひとつずつ帯リボンをかけられて、お行儀よく
眠っている。

<レースって道というか地図みたいにみえませんか>
っていう言葉にはっとして、もういちどその箱の中を
じっくり見てみる。
こま編み、長編みの道や、フラワーモチーフの道が
みえてくるみたいで面白かった。

箱の中。行き止まりがあるから、安心していられる
世界。あの箱の中が果てしなかったら、どうして
いいかわからなくて、海の中に潜った時の気持ちに
駆られてしまうかもしれない。
時折、縦も横も高さにもちゃんと限りあることを、
まっすぐに求めてしまいたくなることがあって。

たいていそういう時は言えなかった言葉が、
じぶんの中にひしめいている時なのだ。
言いたい事はちゃんとじぶんの口でいいなさいと
小さい頃から云われ続けたけれど、結局
いまだに得意なほうじゃないかもしれない。

そんなふうに軽く、ぺこっとひしゃげたぐらいの
気分だった日、ちょっとなぐさめられたような
言葉にであった。

<感情をストレートにだしたり、相手に口をだしたり
するのではなく。相手を信じてみようという・・・>

大好きな役者、國村準さんが時代劇で演じられている役や
登場人物への思いを語っていらっしゃった。

人と話をしていて、その目の前にいる相手へのバリアを
ちゃんとはずしてるときには、相手の言葉をしぜんに
受け入れているものなのかもしれないなって。
それが信じることだってことに、そう云われるまで
気づかなくて、とてもあたらしい感情を手にいれたみたいに
すっきりした。

好きな役者さんの言葉だったからなおさらそうだったの
かもしれないけれど、その言葉にゆだねてみたいって
思いに駆られた。

わたしだけが、ときおり覗いてみることができる
ちっちゃな箱。とっておきだけが棲んでるそんな箱に、
そっとすくっていれておきたいような言葉だった。

       
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