その二九五

 

 





 







 
















 























 

びーだまが 遥か彼方を ちかづけるつみ

よある日、思いがけなく宅急便が届いた。
箱の内側にはぷちぷちに包まれた
とてつもなくこころ浮き立つような
輝きを放つビー玉がめにとびこんでくる。

ある夏の日、その方のお宅におじゃましたときに
リビングにあったビー玉に目をうばわれてしまった。
その後、お礼の葉書に瞬間ですきになってしまった
ビー玉のことを思わず綴ったら、どうぞもらって
やってくださいと送ってくださったのだ。

潮のにおいのする場所でいつも家族に囲まれていた
ビー玉がわたしの手元にあることがふしぎで
うれしかった。
後に彼が、あのビー玉は贔屓にしている骨董店で
みつけましたとメールをくださった。

そして茶目っ気たっぷりに、あれは
「狼は天使の匂い」っていう映画の中のビー玉かも
しれませんね。
なんたってフランス生まれのビー玉ですからと
おっしゃって、その映画まだ見てなかったら
いつか見てくださいって、ひとこと綴られていた。

時折気にしていたのだけれど、七十年代の映画らしく
なかなか機会に恵まれなかったのだ。
でも、そのいつかはいつまでたっても訪れなかったのに
ついにこのあいだ、10年も経ってもう
出会い頭のように、であってしまった。

冒頭のシーン近くで、少年の持っていたたくさんの
ビー玉が、破れた網のすきまからどんどんと
こぼれおちてゆく。
子供同士のすこし残酷な精神の為に、はじけてしまった
というのに、階段の上をいたづらにころびつづける
ビー玉がとてもうつくしくて、目に焼き付いて
しまった。

その映画の中で引用されていたルイスキャロルの言葉が
いつまでも残像のように響いてくる。
<いとしき人よ 我々は眠りに就く前にむずかる
年老いた子供にすきない>

あのとき頂いたビー玉は、今もわたしの部屋で
八の字型の瓶の中で眠ってる。
ほんとうに彼らはどこから来たんだろうと思いながら
すこしだけ手のひらで転がしてみる。
こんなに冷たかったんだって思うぐらい、冷えていた。
風の便りって言葉が浮かんだまま、美しい螺旋を
ガラスの中で放っているひかりを
ながめていた。

       
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