その三〇一

 

 




 







 
























 























 

つかのまの ひかりの軌跡 呼吸のように

なにげなく、カーテンを開くと
夜の空をすっと下降するその抛物線に
似た曲線が、光を伴いながら落ちてゆく。

気がつくと、それは双子座流星群の中の
ひとつの流れ星だった。
ガラス越しにみえるそれを確認したとき、
あっとちいさく息を飲んだ。

窓ガラスは冷蔵庫の卵ポケットの
ふちぐらいの冷たさで、すこしだけ鼻先が
ふれるとその冷たさに、ゆめとうつつが
ゆきつもどりつするような感じがする。

今しがたみつけたひとつの星がいつまでも
残像のように暗さに慣れた目に映っていて
同じ角度で同じ方向に星の光の跡を
みている錯覚に陥る。

すこし首を左にふって、違う空にも目を
見張るけれど、なんぷん経っても星は
みえなかった。

こうしていると、なんだかじぶんの欲深さと
対峙しているようで、次第に気持ちの住処
あたりがしゅんとしてくる。
いくつもの流星を確かめる前に、なにもかもを
欲してるじぶんのことを先に確認してしまった
みたいで、眠さから遠い場所にいるようだ。

ことしもおしまいだなっておもいながら、
まだぼんやりと空を見上げる。
流星は未知で過去で。
どっちのものなのかわからなくなる。

それから何日が経ったある日。
わたしのだいすきだった人が、双子座流星群がよく
みえた日になくなられたことを知った。

人が死ぬということはわたしの胸の間で
まだつかえていることだからおもいきり
非科学的なことに身をまかせたくなった。

あの日、わたしが部屋の緑色のカーテンを
開けたせつな、流れ星がひとつだけ目の中に
とびこんできたこと。
たったひとつだったことに、いみがあるような
気がして。


まわりの世界になじめないぶきようなわたしの
立居振る舞いすべてをつつみこむように、
見守ってくれた年上の女の人だった。

あのひとつっきりの流れ星をいつまでも
おぼえておきたくて、どこか瞳の奥の方にでも
しまっておきたくなったそんな月曜の朝だった。

2010年もここに訪れてくださいました皆様
どうもありがとうございました。
ほんのりあたたかい風がよぎってゆくような
そんなクリスマス&よいお正月をお迎えください。

すてきなおしまいとはじまりが訪れますように・・・。

       
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