その三〇九

 

 






 







 


























 























 

夢うらら 思い出せない 思い出したいこと

春<3月11日の地震後のはじめてのうたたね日記です。
みなさまのこころとおからだのご無事を心よりお祈り申し上げます>
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<ほんとう>の りんかくを知りたくて ゆびさきでふれようと
思うのに いつもそれは かなたかなたに あるだけで
てのひらの上に こそばゆささえも つれてこない

<ほんとう>を いつかみつけたくて さがしにいった
でもそれはそれは アスファルトに映った じぶんの影の
ように ちかづけばちかづくほど とおくなって
やがて きえてゆく

<ほんとう>を もとめてもとめて あるきつづければ
つづけるほど それはそれは からだからとおざかってゆく

もうすきとおってゆくのかもしれない。
もうすでにすきとおってる?
きみのりんかく ぼくのりんかく

散歩をひとりでずっと長くしすぎたせいなのか ぼくは
なまえをおとした
ぼくはこれから たぶんなまえをさがす旅にでるような
よかんがしている。

たなばたの午前零時になると ひらく遊園地の観覧車
色とりどりの扉 まあるい窓の外の あかりのきえた町を
みながら ひとりの老人は町のむこうを こころのなかで
照らしながら かつてのこいびとに いえなかったことや
いってしまってくいたこと そしていちばんすきだった
横顔をなつかしむ

時間と時間のあいだにスラッシュのはいってしまったような
あの日のことを もうわすれているだろうか。

ぼくがおとしたなまえのことなど 探さなくなったあるひ
ぽつんとぼんやりと ろうそくの灯りのように 彼方から
<ほんとう>が ゆらゆらとこちらにやってくるのが みえる
それが あまりに出会いがしらで せつなかったので
あのひの <ほんとう>だったことにぼくはしばらく
気づかなかった。
かなたからやってきた<ほんとう>は かつてなじんだ
りんかくをしていた。 

       
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