その三一九

 

 






 









































 























 

えいえんに はぐれてしまった ぴーす探して

この間の台風で大きなバケツのふたが
ガレージに飛び込んで来た。
窓ガラスを打つ雨の外を部屋の中から
みなていたらた、青い大きなふたはじっと
風に耐えながら、コンクリートの側の花壇の
紫蘭の長い葉の側から動かない。
何時間経っても動いていなかった。

台風一過の朝がやってきて、ガレージの掃除に
とりかかっていたら、見慣れないビーサンまで
植栽と樋の間に挟まっていた。
足裏が当たる部分は薄い黄色で、親指にひっかける
ゴムの所は赤いサンダルの左足のかたっぽだけ。

みしらぬそれを近くの電信柱にたてかけておいた。

バケツのふたと左足だけのビーサン。
どちらも、相方からはぐれてしまったものだから、
期待はできないけれど、できたら所有者がちゃんと
みつかると気持ちいいなって思っていた。

よのなかに正しい形なんてあるのかどうなのか
わからないけれど、おさまりのいい形というのは
あるのかなって思う。

ばらばらのパズルだって、たくさんのピースが
そろっているうちは、それがひとつの形におちつく
未来をはらんでいるわけで。

でも、ひとつでもなくしてしまったらそれはそれは
永遠の未完成になってしまう。
なにかをなくすと心地悪くて、いつまでも気になって
探してしまう。
さがしてさがしてさがしつかれて、すべてはじめから
なかったことにしてしまう。

朝のひかりがまぶしくポストにあたっているとき
中腰でガレージを掃いていたら、体操服姿の
中学生らしき男の子が、会釈しながらこっちに
やってきて、すみませんでしたってずんずんと
電信柱にちかづいてゆく。

おはようって声をかけながら、どこの子だっけと
思っていたらその男の子は、はずかしそうに
バケツのふたとビーサンを手にもって
もういちどあやまりの言葉を口にしながら
向かいのマンションへと帰って行った。

ぜんぶあの子の家のものだったんだって思ったら、
軽くほっとした。
バケツのふたも夏の終わりの栞みたいなビーサンも
落ち着くところへと落ち着いて。
妙にすがすがしい気分。

もしかしたら、さいごの1ピースがはまった時って
こういう感じなんだろうかって思いながら
エアーなパズルを描いてみたくなる朝だった。

       
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