その三二二

 

 




 







 
































 























 

ゆめで逢う ひとりのひとと 静けさを聞く

長い文章を書いていると、じぶんのいる場所から
どんどん遠ざかっていって、もどれないような
気分になることがある。

ここという出発点からいつのまにか、知らないうちに
迷い迷いながら、たどりついたここは誰かがいるけど
もっと大事な誰かとはなにも育めなかったような
喪失感があふれてくるような感覚。

階下にいる人との距離さえも、果てしなく遠くて。
なんだか徹底的にひとりなんだなって思いに
襲われる。

これってなんだろうって思う。
文章を書くという行為は、
まぎれもなくさびしい感情にとりまかれているもの
なのかもしれないなって今更ながら思う。

なのに、手紙を書いているときの思いはそれと違って、
とても幸福な気分に包まれる。
ほとんど手紙を書く事はなくなったけれど
それでも、時折、どうしても伝えたいことが
雪のように降って来る事が、あって。

先日もそんなわたしのぶしつけな思いを、快く
受け止めてくださった方からとてもやさしくて、
まっすぐな思いに貫かれたお返事を頂いた。

手紙を差し上げたきっかけは、わたしが感銘を受けた
出来事があったから。
それははぜんぜん甘さから遠い位置にあって。
その方が満身創痍のからだとこころを使って、
歩まれている日々に、こころ打たれてしまった。
その思いを発酵させるように日常を暮らしながら
やっとのことで便せんに文字を綴った。

むかし、ある詩集を読んでいて絶望と名付けられて
いるうちは、まだその痛みは浅いんだなって
愕然としたことがあったけれど。
そのときの思いに近い感情が芽生えてしまった。

手紙はあらためて、ふしぎなコミュニケーションだと
思う。
会って声を聞いて何かをつたえているわけじゃないのに
こころの奥のほうにしとしとと響いてくる。

じぶんのなかに一瞬そのひとの住む部屋が
できたように、そこに灯りが灯る。

その蝋燭ほどの灯りがいつまでも消えないと
いいなと思いながら、いちにちのおわりにその
部屋のあかりを消して眠りに落ちる。

いつもいつも。
からだもこころも元気でありますように・・・。
そんな思いでいっぱいになる。

ゆっくりと手紙をしたためる。
文字をかさねてかさねて便せんにペンを走らせる
その行為の中に、ちいさな祈りのようなかたちが

かくれているものなのかもしれないなって思う
そんな秋の夜。

       
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