その三三三
 

 

 






 







 

















 

はすきーな 夜を駈けてゆく まいごのように

夕暮れの坂道をのぼってのぼって。
久しぶりの鎌倉八幡宮の裏みちを歩く。
ゆるやかなカーブの途中あたりにある歐林洞に
南佳孝さんのライブを聴きに行く。

昔から好きだったその声。
いまも変わらぬ、喉をやわらかくいじめてるような
歌声を響かせながら、ギターの弾き語りを聴かせてくれる。

雨の降る日の海の歌を何曲か聴きながら、どうしてか
わからないけれど。
いまはここにいないひとのことばかりが思い浮かぶような
しかけに満ちていて。
そんなからくりに勝手にひっかかってしまった。

やさしいことばの歌詞と南さんの嗄れた高音が耳の中へと
はいりこんでくる度に、そこに描かれている景色の中の
女の人がかつてそこで笑ったり背中を向けたり、甘えたり
そんな姿がみえてくるような、時間。

ことばのある音はもう、重たいなって感じることが度々
あったので、聴かなくなって久しかったのに。
詞の世界を聞き逃さないように追っている耳。
忘れていたなにかに再会したみたいで、どきどきする。

「この歌が届くのなら」という初めて聴く曲。
その中に<書きあぐねた手紙>というフレーズがあって。
そのことばに歩みを留まらせていたらうっかり
たくさんの歌詞を聞き逃してしまった。

ぼんやりと記憶を辿りながら、いままでにどれぐらい
書きあぐねた手紙があったんだろうと思いながら
それでも、ほんとうに書きたかった手紙は
とても少ないような気がしていたら
とつぜん、曲のエンディングに向かっていて。

南さんの声は<隠せないため息を>って歌いながら
そのため息はどこに行ってしまうんだろうって
耳を傾けてみると
<草に寝転んで 読みかけの本に挟んだよ>って
ほがらかに曲を閉じていた。

歌詞は御徒町凪さんで、彼の詞の世界はとても
気になっていたので、思いがけずに出会い頭した
時のような、そわそわした気持ちに駆られた。

歌詞のある歌ってあらためていいなってつよく思って。
最近は、なにかを書く時には南さんの
「SMILE&YES」ばかり聴いているこのごろです。

       
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