その三四七

 

 

 






 






 























 

ほとばしる 悲しみの中の 甘い欠片と

キ夜眠る前に少しだけ甘いものを口に
する時のあの罪悪感のようなものから
逃れられない。

辛い物も酸っぱい物にも感じないのに
お砂糖系の甘さにはそれがいつも
つきまとったまま。

好きになった神戸にあるケーキ屋さんの
ガラスケースの中には、タルトやパイや
おなじみのイチゴやショコラのショート
ケーキが並んでる。

職人さんがケーキを作る姿をいちど
見かけたことがあって、その時は
みてはいけないものをみてしまった
かのように、そこには緊張した
空気が張りつめていた。

どんなシンプルなケーキやクッキーだって
その下ごしらえからの道のりを考えると
そこに流れている時間は、決して
スウィートじゃないってことを
目の当たりにした。

ついついショーケースの中でとても
簡潔にそして穏やかに存在している
せいか、ついついそのたたずまいに
騙されてしまうけれど。

いつだったかラップランドのベリーの
記事を読んだ事があった。
国土の6割ほどがベリーの森でうめ尽くされ
ていて、6月から初雪が降る頃までずっと
ニュースではベリー情報が流れるという。

初雪が降る頃に収穫できるクランベリーを
思い描きながら、そこに暮す人たちは
いちにちの終わりを迎える時間になると
ミルクとクラッカーを食べると記されていた
ことを、思い出す。

すぐ側の文章ではムーミンの話も引用されていて。
パンケーキが入った「夜の箱」という名の
眠る前の楽しみをベッドの下にしまっておく
という件があって、そのことが気になって
仕方なかった。

ムーミンが届けてくれる甘い場所とふるまいを
垣間みたみたいで、ふっとこころがゆるむ
瞬間。

なんとなく夢想する。
口にする時に僅かばかりの後ろめたさを
憶えるのはたぶん、ちいさな甘いお菓子には
あらかじめそういうスパイスが入っていて、
ついつい食べ過ぎてしまわないように、精神を
ちくりと射すような成分が、じわじわと
効いて来るように、出来ているのかもしれないと。


       
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