その四一九

 

 






 






 



















































 

もうすでに 見透かされてる ひとみのなかへ

 すこしいびつな表情をした、犬の絵が描いてあるページ。背景はまっかで、なんども筆の後が見え隠れしている。犬のそばにはまっかなボールが落ちていてそれでも、そのすこし無愛想だけど愛嬌たっぷりのその犬の表情がたまらない。
 
 ずっと忘れていたのに、本棚に立ててある冊子をランダムに抜いて、ぱっと開いたページで再会したその名前もよくわからない犬。
 なんかものいいたげな、瞳をしていて、左目の下の皮膚のあたりはすこし茶色い。あとは、白っぽい毛で包まれている。
 作者のマイラ・カルマンさんが、よく公園で見かける犬らしく。
 その犬の描かれたページの下にはキャプションがついている。
<犬はわたしが泣こうと泣くまいと知ったこっちゃ
ない。犬ってそういうものよね。そこが彼らのいいところじゃない>
 ほんと、ほんとって思いながら。すっと風が通り過ぎてゆくような感じがする。

 いつだったか、近くの道である犬たちに出会って。
 ほんとうはまた偶然のように会いたいなって思っている犬が二匹いる。
 それはもう大きな縫いぐるみのような毛むくじゃらの白と茶の犬で。むくむくと彼らが歩いている時は大きな羊毛の塊を運んでいるのかと見紛いそうになった。
初めて会った日。
ほえないのに無言のまま、先に渡った信号の先で、ふたり(二匹)で静かに足を揃えて待っていてくれてときは、なんともいえないきゅっと胸がしめつけられるように、うれしかった。
<犬ってそういうものよね。そこが彼らのいいところじゃない>ってフレーズをもういちどなぞりたくなる。
 ニューヨークの公園で見かける名も知らないその犬が、
今も元気に走り回って、またときどき彼女の絵のモデルに
なっているといいなって、なんとなく、とりとめもなく。

 

       
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