その四四九

 

 






 






 


















































 

凍りそう そんな溜め息 吐くだけ吐いて

 1月、表参道にあるピンポイントギャラリーで、寺門孝之さんの個展「AT WORK展」におじゃました。
 風にふかれるまま、らせん階段をおりてゆくと、そのギャラリーがあって。そこにたどりつくまでのみていた風景と違う、ちいさなコアの部分に触れているような作品群に取り囲まれながら、拝見していた。

 とりわけすきだったのが、宝船に乗っている笠智衆さんと原節子さんの一枚だった。
 やわらかな色で構成されているのに、ずっとその前にたたずみたくなっているような気がしてくる。
 じっとみているはずなのに、ちゃんとそっちからみられているような。
 それはたゆたうような彼岸からこちらを見ているようで。宝船はじっとしているようにみえるのに、いつか振り返るともうその宝船の住人はいなくなっているような。
 なつかしくて、せつないかんじから、ずっと眼が離せなくなっていた。
 ひとつの個展でたったひとつの大好きな作品に出会えることは、幸せな時間だなと思う。

「何が一番悲しいってそれは愛情を与える人がいない」ってことばを原節子さんがおっしゃっていたことを読んだことがあって、ずっとその言葉があたまのなかにひっかかっていた。

「東京物語」で、老夫婦になった両親に対するそのリアルなふるまいをするおじさんやおばさんが登場するときの、あのやるせない想いをすっと掬ってくれるのは原節子さん
だったような気がする。
「東京物語」の中でのやるせなさを通り越したほんとうの
現実のせつなさが迫ってくる感じもする。
 スクリーンの中の原さんの微笑みとインタビューの言葉が宝船のふたりのようにそこにならんで。
 此岸にむけて語りかけているような。

 
 

       
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