その四七七

 

 




 







 


































































 

楕円めく 記憶のうたを レエスに捧げて

 糸と糸がもつれることもなく、格子状につむがれて。そこにいくつかのしずくが、水玉模様みたいに浮かんでいた。
 
 垣根と垣根のぽっかりとした空間に、蜘蛛の巣がとてつもなく広がっていた。
 そこにひとりいたのは、黄緑色と黒の、横縞の蜘蛛で。
 調べてみるとジョロウグモだった。

 おとなりのお宅との境だったので、いやかなと思って、その巣を払ってしまおうと思ったけれどあんまりよくできていたので、そのままにしておいた。
 ちらっと見ると、その巣にはもうすでに戦利品らしきものがひっかかっていた。

 どれぐらいの時間でこういうものを、こしらえるのかわからないけれど。
 横糸がこまかくはりめぐらされていて、丸いというよりは、楕円のような形をしていた。
 繊細なレエスをつむいでそこに獲物が包まれている。身動きできないけれど、なにかの生き物らしいものが対になっていて、それはそれで、アクセントのようだった。

 つむぐという行為にあこがれているのかなって思う。なんでもいい。それはまぎれもない時間だから。
 あの蜘蛛は、間に合ったのかな。うまく、日々というか人生というかそういうものに、たぶんとても間に合ったんだろうと思う。
 「思い出そうとしたときに、最初によぎった感触。それが文字にするともうそこにはなかった」という言葉を眺めながら。
 文字をつむぐっていつもいつも気づいた時には遅れている。ほんとうはちゃんとあのジョロウグモのように間に合いたいだけなのに。

 

 

 

 

 

       
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