その五〇〇

 

 





 






 




















































































 

植物に 水そそぎつつ 鼻歌うたう

 いまの、うたってなんだったっけ?
 うた? うたってなによ。
 ちゃんとじゃなくって、鼻歌みたいなの歌ってたでしょ。
 鼻歌なんて、ぜったい歌わんって。ありえん。
 
その後、ちょっと照れてみたいに咳払いしてすっごい静かになった。
 この凪はなに? っていうぐらいのしじま。
 どうして隠すのかなって思う。
 はずかしいことがばれたときみたいに、隠すのって、ねぇ。

 とか思いながら、鼻歌は聞いたひとも、確かめちゃいけないんだと、すこし反省した。
 しずかに耳のなかに閉じ込めたら、そのまましばらく寝かせておくのがいいのかもしれない。

 と、おさめつつもでもねとかって思う。
 カラオケわたしは行かないけれど、カラオケはみんなにあんなに聞かせるのに、やっぱり、へんだとおもう。
 だって、鼻歌だよ。
 すきなんだよね、この歌でいいじゃない。
 その歌にも失礼だと思う。

 夜、ひとりで『オペラ座の怪人』をみる。
 みるっていうより聞くが近いかもしれない。
 主人公のファントムが、柱の陰でひとりで、クリスティーナを想って泣きじゃくりながらうたうシーンに、もっとしゃがんでしまいたくなるぐらいほろっときた。

 それで、ふいに思いつく。鼻歌って、すごく楽しいことがあったときのイメージだったけど。
 もしかしたら、じぶんを鼓舞するときにも、息を吐くように、こぼれてしまうものなのかな?
と。

 だから、やっぱり、あれを聞いた時は、黙ってしずかに、通りすがりのように耳のなかに棲まわせるのがいちばんいいんだ、と。

       
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