その五〇二

 

 






 







 






















































































 

溜め息に 似ている糸を みじかくつむぐ

 この間の夜中もよなか。
顔を洗ってさぁ寝ようと思っていたら、少しどこか真横あたりの視界をよぎるものがあって。
おそるおそるみていると、すっごいびっくりするぐらいの大きな蜘蛛がキッチンの換気扇の横の壁際にいた。

 いわゆるアシダカグモという種類らしいのだけれど。わるいものではないということを知っていたけれど。
 そのちいさなてのひらみたいな大きさに気おされて、とまどいながらも。
 夜の蜘蛛はあまりよくないからって母からも聞いたことがったので、格闘してしまった。

 夜の楽しみがひとつあったのだけれど。それも返上して。にがすか、どうかで迷う。
 ただあまりにおおきいと,にがすことに至るまでがたいへんそうで、もうひとつの選択肢をえらぶ。
 ほんとうにそのあとはすごい罪悪感で。
 日記にもほんとうにごめんなさいと謝らないとよくないことが起こりそうで、ひたすら謝罪していた。

 こういう迷信みたいなことにひたすら惑わされそうになるのが、夜なんだなって思いながらも、寝つきのわるい夜を過ごした。
 翌日。キッチンに立っていたらなんとなく目には見えないのに、腕のあたりにかすかな繊維状のものが触れた気がして、目をこらす。
 みるけれど、そんなものはみえない。けれど壁のあたりを指でさぐると、やっぱり糸状のものが手に触れた。
それは昨夜の、アシダカグモが吐き出した糸みたいだった。習性はよく知らないけれど、危機を感じて蜘蛛は糸を、あわててこしらえたのかもしれない。
 こっちも必死だったけど、あっちはもっと必死だったのだ。

 窓の外を見ると蝋梅の木に蜘蛛の巣が張ってあった。
 ちがう種類だけれど。それを見た時、いくらでも巣をはって、かまわないからと罪滅ぼしみたいな気持ちで、風に揺れる蜘蛛の巣を見守っていた。

       
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