その五〇八

 

 





 





 
























































































 

かんなくず 匂いを放つ 深く吸う息

 満月の一日前ぐらいの月をみながら家路を急ぐ。たくさんの家が立ち並んでいるのを、見上げながらみんなここにかえってくる場所があるってことを、とりまくいろいろな景色に思いを馳せてしずしずと歩く。

 夜はだれかとどこかですれちがう度、胸元あたりが光っているひとたちとよく出会う。
 ひかりの正体はわかっているはずなのに、たいていそのひかりのみなもとを探してしまう。
 ぽつんとそのひとだけを照らすすまほのあかり。
 そのあかりはなにも導かないかもしれないけれど、なくてはならない光なんだなって思ってみたり。

 お隣の家が壁の塗り替えをしているので、家をまるごと足場とネットがくるんでる。
 ざわざわとネットが風にゆれている。
 この間、新聞の書評欄をのぞいていたら、『あるノルウェー大工の日記』という本に出逢った。
 ノルウェーの大工さんが、築100年を超える屋根裏の改築をすすめてゆく物語らしく。
 そういうモチーフのものははじめてだったのでとても興味深かった。

<ダン、タム、ビヨーン・オーラブ、トマス、ヨハネス、グスタウ、ユッカ、ペッター、そして私はみな自分自身の一部をこの屋根裏の壁や屋根に残している>
 そんな文章に触れて、ちょっとじんとした。
 屋根裏という場所はいつも使っている人の心地よさばかりがクローズアップされるけれど。
 ちゃんとみえないところを、拵えた人々の思いが、宿っているんだなって思ったら、胸がそわそわしてくる感じに駆られた。
 ものをつくるって、ほんとうはこういうことなのかもしれない。思いっていうのは、やっぱり細部に息づいているものなのだと気づかされる。職人の方の呼吸までもが聞こえてきそうで。

       
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