その五三八

 

 






 







 



































































































 

しろすぎる たまごのからを 破って鳴いて

 なにげなく、窓にあたる雨の音を聞きながら、テレビ
から流れる音を聞いていた。
先生と呼ばれる知らない誰かの声が、あたりまえのように響く。
彼は、ひとになるまえのはじまりを「ひき」と数えた。
それを一緒になにげなく見ていた人と、
「ひとになるまえは、ふたりともひきだったんだよ」っ
てわたしが言ったあと、すぐにわぁって一言返してくれた。

 みんな「ひき」だったんだ。
ちょっと目に写るものたちが、うえでもしたでもなく、
並んでいる感じがする。
そんな簡単なことなのかどうなのか、もはやひとに生まれてしまったわたしはわからないけれど。
でも、瞬間みえない線をこころのどこかで引いたりすることがとっても、無意味に思えた。

 日記に書いていた言葉が目に飛び込んでくる。
<鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは、1つの世界を破壊しなければならない>。
創造することと壊すことが、時系列に並んでいるのではないって教えてくれるてるんだよと教えてくれた先生がいた。鳥がやがて逢いに行くのは、自分自身だよとも。そうですかって答えながらも、卵が世界なら、殻から抜け出ようともがく鳥は、なんども殻をやぶらなければいけないんだろうなって途方に暮れた。
小さい頃から、殻をやぶりなさいってなんど言われたことか。みんな「デミアン」由来だったのかはわからないけれど。

どうしてあなたとわたしがここにいるのか。ふたりとも、どうしようもなく「ひき」だなって思うと、写真立ての中でシンシアっていう名前のチューリップの原種が挿してある花瓶といっしょに座ってるむかしの黒猫といま、みんなが同じ場所にいるみたいで、やわらかい空気がそこに流れているような感じがしていた。

       
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