その五五四

 

 






 








 













 

春めいて うらーらのなに? あてはめる空

薄緑と濃い緑色のもこっとしたマフラーを洗う。
これってほんとうはもっとはじめは長かったし、
幅だってもっと広かった。じぶんじゃないひとに、
洗濯をまかせたばっかりに縮んだんだけど。
その時のすっかりべつの顔をしていたマフラーが
干されているのをみたときのあの失った感は、い
まもすっかりちんちくりんになったこれをみると
苦い思い出と笑いと共に思い出してしまう。
あの失った感ってなんだろうと思いつつ、春だと
いうのにまだ調子がいまひとつなので、ややこし
い文章なんかを読んでみる。

つまり、春って感情をフラットに保ちたい季節な
のだ。桜が咲いたり春めいたり、でも三寒四温で
寒くなったり。でも、なんとなく春まっしぐらっ
ていうよりもこの少し寒くなる感じが好きだった
りする。
で、読み始めたのが、ナーガールジュナ、龍樹と
いうひとの『中論』の書評。
なんていうか、実体をとことん否定したものが羅
列されかつ証明されてゆく一冊らしいのだけれど。

評者の方曰く、わたしたちは言語で世界をとらえ
ているから、いつでも<対象が実在すると思って
いる>でもそれは<虚妄>だと本書は言っている
よっておっしゃってて。
ややこしくってうれしくなる。
なかったことの証明ほどむずかしいことはないっ
ていうけれど。おもしろいほど、これほどまでに
実体を拒否するわけは、<無明から解放されるた
め>とあって。
ますますわからないまま深い森に入り込んでしま
うこの時間を楽しみつつ、むみょうはつまり、
<実在していないものを実在しているかのように
思い込むこと>らしい。
なんかここにきてじぶんのきもちにぴったりと、
きてくれた。そういうこと。ふぇいくとふぁくと
のはざまでおよがされてるじぶんやせかいのさま
ざまなひとを思い浮かべたりしてみた。
ナーガールジュナさん、生没年不詳のイラストを
みる。薄物を羽織った姿。お召し物がはるのうら
らって感じがして、わからないものに引き寄せら
れていつのまにか、ふにおちているわたしを静か
にその人はほほえみながらみつめていた。

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