あの街の シザーハンズは 夜のリズムで
髪を切る。思い切り、ばっさりと。
耳は、しっかり出して、ここらへんはちゃんとふくらみ
もたせたいんだよね。前髪は、フォワードに流す感じで。
右? 左? この毛流れでいうと左だよね。
ふつうはじぶんがこういう髪型にしたいって、オーダー
するんだろうけれど。いつもお世話になっている最寄り
駅近くの「ニアロ」。美容師のМさんのリクエストにわた
しが、乗っかるっていう感じ。こういうニュアンスのやり
とりがいつからか続いていて、とても心地いい。
小気味いいハサミの音が耳の側で聞こえる。
ちょっとだけ過去になやんだ時間を携えていた髪が、ば
さばさと床におちてゆく。おちつかない獣の尾っぽが、
しだいにおちついてゆくような。あたらしくうまれかわっ
たような。
喋りたいときに喋って、わたしも愛想笑いとかじゃなく
て、ちゃんと笑ってる。リラックスっていうけれど、
これって、もしかしたら信頼だよね。って思う。
そのことばのなかにはリスペクトが含まれていて、その
専門のスキルなどに対してぜったいの信頼度が濃い濃度
でもって内包されているときにリラックスできるのかなっ
て。
美容室からの帰り。なんとなく前をゆっくりと歩いてい
る人のもっていたデニムのトートバッグをみるともなく
みていた。
かわいい書体の英文字で、ざっと読んでいたら<たった
一度きりの人生はあまりにも短いんだよ。世界はこんな
にも広いのに。だからあなたがわらっていればすべてう
まくゆくよ>みたいなワードがいろんな書体で綴られて
いて、ぜんぶはよめなかったけれど、それをみたときに、
なんだか、この1か月ぐらいのわたしのこころのどこか
に、まっすぐに響いてくることばで。
いつかどこかで聞いたことあるデ・ジャヴュ感たっぷり
なのに、こうやって出会うとちゃんと届きましたよその
めっせーじっていう気持ちになる。
トートバッグやTシャツの言葉って、いろいろだけど、
道行く誰かに宛てた言葉でもあるのかもしれない。
それと。髪を切るって、ひとにとって大事な車線変更の
ひとつなんだなと。ジョンレノンじゃないけどスターティ
ングオーバーが、さっきまで聞いていたハサミ音の代わ
りに、耳のどこから奥の方で鳴っているそんなきぶん。
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