その五六五

 

 





 





 

















 

あの街の シザーハンズは 夜のリズムで

髪を切る。思い切り、ばっさりと。
耳は、しっかり出して、ここらへんはちゃんとふくらみ
もたせたいんだよね。前髪は、フォワードに流す感じで。
右? 左? この毛流れでいうと左だよね。

ふつうはじぶんがこういう髪型にしたいって、オーダー
するんだろうけれど。いつもお世話になっている最寄り
駅近くの「ニアロ」。美容師のМさんのリクエストにわた
しが、乗っかるっていう感じ。こういうニュアンスのやり
とりがいつからか続いていて、とても心地いい。

小気味いいハサミの音が耳の側で聞こえる。
ちょっとだけ過去になやんだ時間を携えていた髪が、ば
さばさと床におちてゆく。おちつかない獣の尾っぽが、
しだいにおちついてゆくような。あたらしくうまれかわっ
たような。
喋りたいときに喋って、わたしも愛想笑いとかじゃなく
て、ちゃんと笑ってる。リラックスっていうけれど、
これって、もしかしたら信頼だよね。って思う。
そのことばのなかにはリスペクトが含まれていて、その
専門のスキルなどに対してぜったいの信頼度が濃い濃度
でもって内包されているときにリラックスできるのかなっ
て。

美容室からの帰り。なんとなく前をゆっくりと歩いてい
る人のもっていたデニムのトートバッグをみるともなく
みていた。
かわいい書体の英文字で、ざっと読んでいたら<たった
一度きりの人生はあまりにも短いんだよ。世界はこんな
にも広いのに。だからあなたがわらっていればすべてう
まくゆくよ>みたいなワードがいろんな書体で綴られて
いて、ぜんぶはよめなかったけれど、それをみたときに、
なんだか、この1か月ぐらいのわたしのこころのどこか
に、まっすぐに響いてくることばで。
いつかどこかで聞いたことあるデ・ジャヴュ感たっぷり
なのに、こうやって出会うとちゃんと届きましたよその
めっせーじっていう気持ちになる。
トートバッグやTシャツの言葉って、いろいろだけど、
道行く誰かに宛てた言葉でもあるのかもしれない。
それと。髪を切るって、ひとにとって大事な車線変更の
ひとつなんだなと。ジョンレノンじゃないけどスターティ
ングオーバーが、さっきまで聞いていたハサミ音の代わ
りに、耳のどこから奥の方で鳴っているそんなきぶん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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