その五七七

 

 






 







 















 

放たれた ものたちだけが 半透明に

知らない人達に囲まれて、そこにひとりぽつんと
座らされて。
部屋のすぐ対岸には、なじみのみんながいるけれど。
なじみのひとたちは、みんなそれぞれに楽しそうに
わらったり食べたりしている。
わたしは、そこに招かれた2番手のひとにあなたは
そこって言われて、座らされた。みんなとは離れた
場所を指定された。

親しくなれない人たちと上陸してしまった陸の孤島だねっ
て思う。
さして仲が良かったわけじゃなかった、そっち側にいる
みんなと喋りたいって気持ちになってくる。
でもそっちにわたしが行くことはゆるされず。
とかって思ってたら、ひとり眼の前に女の子がやってきて。
ふたりでがんばろうねみたいな目線だけの会話をした。
ふたりとも口角だけはあがっていたと思う。
長い間ひとりだったわたしは、彼女がそこに現れたとき
生物に一度も出逢うことのなかった砂漠でやっと一匹の
サソリに出逢えたみたいなとても、逢いたかった思いに
かられ、かられた。

きびしいぴきっとした空間。
乱暴なことばを使うひとはひとりもいないのに、
とても緊張のはしる会話が取り交わされて。
その女の子は、とても気の利く態度で彼らに接した。
わたしは、如才ないとかそういうことに欠けているタイプ
なので、なにもできず彼女の立ち居振る舞いにただただ感心
していたら、とつぜんわたしのとなりのひとが、あなたは
いいから、あっち側のすきな席に座りなさいって言って、
彼女はそこから去ることを要求された。
わたしの眼の前からは彼女が消えて。
もとの孤島ぷらす彼らの空間に後戻りした。
でもひとりでその場所で抗わずにゆだねてみることを
おぼえたら、その空間はとてもむかしから知っていた
場所のように居心地がさっきよりはましになっていった。
それは今思うと、ストックホルム症候群に似た症状だった
のかもしれない。あるいみ生きる術だね。

「おとうさん、おかあさんの言うことをちゃんと聞いてね」。
むかしむかし、学校の先生に言われたようななつかしい
フレーズを、となりにいるそのひとが囁いた。
あらためてそのひとを見ると、とても清潔感のあるシャツを
着た、みたことのないどこかの国の時間を知らせているような
時計をうでに巻いていた。
耳にその声が沈んでいった頃、すでにわたしの緊張は
ほぐれていて。ほぐれたと思ったら、もうさよならの時間だった。
信じられないけれど、こんなにも孤島めいた場所が、去りがたく
なっていた。

過去の化石みたいになっているあの日のことを思い出す度。
マリリンさんが、いつか悲しみのはざまで言ったかもしれない
<いいことが砕けても、もっといいことがひとつになる>
って言葉を思い出してしまう、いっつも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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