その六五五

 

 





 






 







 

したためて したためてゆく いまほらそこに

考えすぎて、その想いが沸点に
到達した時に、ふいにかかってくる
電話みたいに。

うれしいのに、うまく喋れない。
うまく、いつもやれない。

電話を切った後、なにかを話したかった
はずなのに、つまらなさそうな返事しか
できなかったことに、ひどく悔やむ。

そんな時にわたしは「書いて」しまう。

「書いて」いる時は、記憶を辿っている。
たどってしまう。

記憶って過去じゃなくて、想いだしている
時はひたすら現在になっていると想って
いる。

時間というものが、過去現在未来という
一直線の流れじゃなく、混ざったり集まっ
たりしておるように感じていることが、
あるんです。

古井由吉著「ゆらぐ玉の緒」からの言葉。

もう会えなくなってしまったもの、たぶん会え
ないかもしれないものや出来事を書くことが、
どこかで好きなのかもしれない。

書くことで、もうそんな愛すべきもの達は、
どこにも行かないよって言ってくれる気が
する。

<死んだものは、どうせそれを知ることは出来ないが、
しかし死んだのち人々が、自分に冷淡でないと考え
ることは気持ちの悪いものではない>。

武者小路実篤『人生論・愛について』の言葉。

こんな言葉を贈られた気持ちになっているこの頃です。

 



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