その六六九

 

 






 







 



 

雲たちが ちぎれちぎれて 愛しくなって

はじめて、愛という言葉を、
使ったのは、たぶん小学生
ぐらいの頃で。

自発的ではなく、それか正解
たから、使っていたんだと思う。

国語の時間どうして、主人公は
こんな行動をしたのでしょう?
その問題の答えは、肉親への愛情か
彼をその行動にかりたてました。

とか、

許婚(いいなずけ)への
愛情があったからです。

など、など。

教室で、その正解を
答えなければいけない時、
口ごもった。

なぜか男子たちが、愛という言葉に
敏感で、一言でも、「あい」と漏らそう
ものなら、たちまち、
ひゅー、ひゅーって、はやし
立てるからだ。

あのひゅーへのリアクションが
面倒くさくて、答えをずらす
癖がついた。

そして、先生にほんとうに
そうかな?
もう一度、考えてみようね
って、たしなめられる。

そして愛は、じぶんの
守備範囲内じゃないものに、なる。

わたしも人並みに人を好きに
なったことがある。

その人が好きだと言って
いたのが、

ECHOESの「愛をください」
だった。

歌詞の中には「愛をください」が
リフレインされる。

なんか、しずしずと、突き刺さる。

辻仁成さんのあのハスキーな
声のその歌詞を耳の中で
聞いている時だけは、
寂しさとやさしさを
注がれたみたいで、
温かさに泣きそうに、
なっていた。

あの日の愛は、もうここには
ないけれど。

いまは、少しだけわかった
つもりだ。 

両親の愛、先生の愛、
仕事仲間の愛。

あの教室で、ひゅーひゅー
言っていた彼らも、きっと
「愛」したり愛されたりを
重ねて、おじさんになって
いるんだろうな。

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