その六七〇 |
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鞄 |
いつの日か 味になって 私のものになる さっき、ふいに目にした小説の 田舎から越して来た女の子が、 足元にあったかばんを立たせる 自立しないカバンというやつだ。 わたしは今でも自立しないカバン 自立という、生活そのものの言葉を 自分でも心ともども自立している感じが そこに鞄がひとつあるだけでなにかを まだ誰のものでもないデパート売り場に 確実に誰かのものである鞄には、ずっと 地下鉄に乗っていて向かい側に座る 震災があった時、それひとつだけもって わたしにとって大切なものや失いたくない そして、あきらめてしまった。 あの時は祖母が亡くなったばかりだったので 年月を蓄えて愛でられてきた誰かの物達は、 |
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