その六七四

 

 




 






 






 

目的は 知らないまま 遠くまで描く

以前、絵を描くことを生業にしている人と
喫茶店で打ち合わせをしていた時。
雑談をしていた。

偶然母の母校で、今彼が教鞭をとって
いることを知ってうれしそうに笑った。

作る過程ではなんども喧嘩したけど、
その時だけは、ほころんだ時間が流れていた。
わたしがそんな時間をかみしめていたら、
ふいに彼はいまちょっと描いていい?
って聞いてきた。

彼がそう尋ねる時は、ちゃんと話に耳を傾けて
いるから、デッサン続けてもいい? っていう
意味なのだ。

その風景をみているのが嫌いじゃないので
面白い空間に今日もいられたとほこほこする。

わたしの話にうん、とかへぇ〜とか言いながら、
ちゃんと合いの手を打ってくる。

彼は、そのときとある場所の壁画を担当して
いて。

その現場近くで会ったので。デッサンのノートと
濃ゆい鉛筆を持ち歩いていて、なにか思い立ったら
誰が前に居ようとさらさらと描き出す。

ページには線が何度も重なったようなラフスケッチが
そこに描かれていた。

これが、この人がいまわたしといるこの時間に
あの眼で見えたり頭の中に浮かんだものがここに
カタチになってるんだなって。
ぶあつい白いページをめくりながら、これってちょっと
ぜいたくだなって思っていた。

これが、何になる確率ってどれぐらい?そう聞いたら、
そんなこと思って描いてないよって。
今、描きたいって思ったから描いた。

それだけ。

これが何かになるかなんて、彼は考えてない。
描きたい気持ちをつかまえただけ。

アイデアを狩りにでかけないってことなんだと
気づかされた。

あの日の会話を今も思いだす。
わたしの最近のアイデア探しは、ちょっと
がつがつしすぎていたかもしれないなって
思ったりしていた。

描きたいから描く。
書きたいから書く。

この原点に立ち戻りたい。

TOP