その六七六

 

 





 







 







 

届けたい 色だけそこに 染められてゆく

最近、少し言葉でつまづいた。
伝える言葉を誤解されてしまって
いたことに気づかなくて。

でもその誤解は受け取りての方の
気持ちのせいじゃなくて。

少し乱暴な気持ちのまま書いた
言葉がその冷たい熱だけが
伝わってしまった。

言葉はきっと熱さも伝わるけれど、
その冷たさも伝わってゆく。

冷静ではなくて冷ややかな思いで
書いた言葉は、宛先はひとりだった
としても、それを目にした人にまで
伝わってしまうんだなって思った。

『詩の誘惑』という詩人の井坂洋子
さんのふるい本。

その本の中には、
「人に伝えることばがあるのかを問う前」に
「自分が自分に伝えることばはあるのか」って、
詩人の石原吉郎さんの言葉が綴られていた。

ああ、と腑に落ちた。

ただ誰かに発するだけの言葉というのは
ないんだなってことか、と。

じぶんに折り合いがついていないのに、
誰かに言葉なんて伝えられないんだなと。

今の時代を分析はできないけれど、現代は
何かを伝えようとしてばかりいることが常
で、

私の言ってることわかりますか?

ってみんなが口々にいっているそんな時代
なのだ、きっと。

過呼吸気味に伝えようとしていることじたい
が、自分を含めて苦しかったのだ。

でも誰かに伝える前に自分が自分に伝える
言葉がない限り、誰にも伝わらないような
気がしている。

井坂洋子さんも、仰る。

20年以上前の本だけど。
時折こんな情報にまみれた時間の中で、自分の
耳や目をふさいでしまいたいことがあると。

でも、例えば詩を書くというのは。

誰かにではなくてまず自分へ贈る言葉なの
だと。

そうか、まずそこからだよねと。

そこからはじめたくなっていた。

TOP