その六七七

 

 






 






 





 

呼吸が 規則正しく リズムを打って

じぶんの好きな世界を誰かにこれいいんだよ
ってなかなか言いにくいタイプだから。

いつもひとりで、これいいねって思っていた。
ごくごく親しい年上の女の人にだけは、
じぶんの好きな世界を知ってもらっていた。

すきなものの話をしているとき、わたしの
こころは整う。

そして、そのことを受け入れてもらえる
という安心感があるから。

逆に、誰かの好きな世界を聞くのは好きだ。

好きな人の好きな世界は、凄く知りたいと
思う。

好きな人と古都で会っていた昼下り。
ふたりのお気に入りの古いカフェで
一枚のCDをもらった。

彼女がずっと心の底から応援している
ミュージシャンの方。

ちょっとどきどきしたって、言いながら
そのCDを渡してくれた。

歌詞カードを開いたらわたしの名前も
ちゃんづけで書いてくれていた。

サインもらってくれたんだと、思うと
じんとした。

昔よく呼ばれていた呼ばれ方の名前が
そこに綴られていて、照れくさいような
うれしさがあった。

そこまでして贈り物をしてくれたМちゃん
の気持ちがありがたかった。

じぶんの好きな世界に好きなひとの
好きな世界がまじりあうとき。

わたしは心の底が、むかし底なし沼の
ようになっていた人を避けていたあの頃を
すっかり忘れられる。

ひとりになった部屋でわたしは最近
使わなくなったコンポのCDトレーに
この一枚を乗っけて、聞いている。

部屋が音に包まれてゆく。
人と出会うということは、じぶんの世界が
じんわりとひろがってゆくことなんだなって

そんなことを思っていた。

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