その七〇七

 

 




 







 






 

足跡を 刻む音だけ 耳に届いて

母が11月に倒れてから、不器用ながらやりくり
しながら、毎日面会に行っているのだけど。

この間は、指をまじまじみつめてる母が
この指ひとつひとつも頑張ってくれてるから
ってしみじみと言った。

身体をひとつのものと感じるんじゃなくて。
ひとつひとつのパーツへの存在に感謝して
いるみたいにみえて。

元気な時には知らない母の言葉だった。

そうやって今は母から聞いた言葉を、日記に
記している。

機嫌悪い日もあるけど。
30分の面会時間やリハビリ時間に会う時は
ほんとうに一歩ずつだけど前に進んでいるのが
わかるから、言葉にしておきたいと思った。

それをできるのってわたししかいないだろう
なって。

面会は義理の妹ちゃんに送ってもらう時も
多いけど。

ひとりで帰る時は、歩いて帰る。

この間、3日のことだった。

1日に起きた災害のことで、
気持をどこに置けばいいのかわからない
気持で高層マンションの花壇を通り過ぎて
繁華街にぬけたころ。

家系のラーメン屋さんの前は高校生らしき
ひと達で熱気でごった返している。

その時、坂道で通りすがる男の子がいた。

紺色のフードを目深くかぶっていた。
真下じゃなくてちょっとだけ目線は上だった
けど、背中を丸めたボクサーみたいな
佇まいだなって思った。

指先が音を刻むようにリズミカルに動いてる。

見ると悪いなって思いながらチラ見したら。

彼の唇は微かに音を刻んでるみたいで、ああ。

彼はラッパーなんだってすぐわかった。

ひとめも気にせずに、リリックのところなのか
なんどもなんどもじぶんで、ちょっとちぇって
じぶんに苛立ちながらそれでも、も一度言い直
しながら足取り軽く歩いていた。

彼がどんな背景を持った人なのか知らない。
通りすがりのラッパーさんだったけど。

それぞれの2024年はもう始まっているんだなと
なんとなくそんなことを思っていた。

彼のひたむきな姿を見ていたら、すこし
わたしのなかに違う風が入り込んできて
いるのがわかった。

SNSを離れて道を歩いていると。
いろいろな考えが通り過ぎながら駆け抜けてゆく。

今年もどうぞうたたね日記をよろしくお願いいたします

 

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