その七〇八 |
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世 |
傘の中の ふたりきりに なってゆく夜 少し前、ひとりで風邪をひいていた。 廊下を歩く音。 お茶碗を洗う音、キーボードをカチカチ スイッチをぱっちんって消す音。 咳をしてもそうだし。 風邪を引いていると。心細いということもある 風邪を引くと、負けん気が強くなる。 昔、風邪を引いた時はぜったいそばに もっと子供だった時は母がおうどんの 弟とおそろいのお皿にはパンダが笹で そのパンダの絵柄がみえるころは悲しかった。 もうやさしい時間が終わってしまう気がして。 そして母は翌日あたりから、わたしの日頃の 風邪を引くとやさしくされた日のことが蘇る。 そして同時に思い出すのが尾崎放哉のあれ。 咳をしてもひとり あれはほんとうに傑作だと個人的には思うけど。 この間、深夜にそんなことをつらつら あの句が「ひとり」だからそれは「ひとり」感が あれをちょっと味変のように、二次創作して この世の中でふたりぼっちであることを知らせる、 この切なさは嫌いじゃないなって思ったりしていた。 ふたりで咳をしてる音が部屋いっぱいにひろがって ふたりという世界でいちばんすきな単位。 悲しくて切なかった。切ないという感情の裏側には 咳をしてもふたりだけど、咳のことよりも |
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