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終
わ
ら
な
い
海
の
色
し
た
手
紙
の
よ
う
に
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とても乾いた色で塗り込められたどこかへと続く道。
建物は伸びやかに聳えているのに、よそよそしさと共に
あるのは人々の気配すらも希薄にみえる町並み。
そして風の匂いも見当たらないのに
ただ1本の旗だけが、生きているもののように
たなびいていた。
そんな不思議なキリコの絵をときおり見ていたくなるのだが、
勇気あるひとりの男のひとは少しだけそこに棲んでしまうことを
あつく決心する。
まぼろしのように眺めているだけではひっこみが
つかなくなって、 絵の中に棲みついてしまう男のひと。
そんな物語りのような話をいつか聞いたことがある。
いつもは絵の中にしか存在しなかった世界をすみずみまで
味わいたくて彼はその町の郵便配達夫になってしまう。
自転車でどんな路地にも迷い込んで、かつてあの絵の中に
感じることのなかった風の匂いに気づく至福。
男のひとはもうすでに現実のひとではなくて、永遠に
迷路のなかに紛れてゆく。
わたしはだいすきな人への手紙の宛名を書き終えると
いつもキリコの絵の男のひとのはなしを少しだけ思い出す。
一瞬のつたなすぎるぐらいの思いをとじこめて、
封をするとき まだ訪れたことのない地図の上で眠っていた架空の町が
いまそこにたしかにあるようにいきいきと息を吹き返すように
感じてしまうのだ。
そんな刹那の味を占めてしまったときから、きっとわたしは
あの絵の中の男のひとと同じ思いの中に棲んでしまって
いるのかもしれない。
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