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濡
れ
て
い
る
猫
の
か
ら
だ
が
ま
る
く
ち
ぢ
ん
で
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ささやきを わずかにさらって くらませてゆく
ふっと宙にてのひらを差し出してそのひとは
空を見上げていました。
なにかを受け止めようとしているような
そのかたちをわたしはじっとみていました。
すこしだけ風が髪をゆらし
読みかけていた雑誌のページを走らせ
ジャムパンのビニル袋がアスファルトを踊りました。
まだそのひとはおなじすがたでなにかを
待っているみたいにてのひらを空と地面のあいだに
置いたままです。
こういうときに話しかけてはいけないのだと
じっとしていたらそのひとは
すこし笑っててのひらを閉じました。
あたまのてっぺんに冷たいものを感じて
わたしはそのひとが雨の気配の観測人であることを
知りました。
まだ触れたことのないそのひとのてのひらに
落ちるつめたいはじまりの雫。
そっと握りしめていた拳のなかにとじこめて。
雲と空のさかいめがわからなくなるぐらい
にじんでまざりあう時。
生まれたての雨の匂いが傘のないふたりを
つつんでゆきました。
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