その三二







 





 









 

じぇらしいの いみそれさえも わすれたいのに

天気のよい日曜日。
たとえばまっしろいシーツなんかをびやんとしわを伸ばして
干したあとなんかに思い出すこと。
今日はなぜだかゴルフクラブのことだった。
あの長いシャフトの部分のひかりががちょっとわたしを揺るがす。

それを磨いておくようにと、父にいわれたわたしは
赤い絨毯の部屋におばあちゃんのようにぺたんと座り
渡された布と磨きクリームをつけて
ときおり息をふきかけてそれをとにかく無心に磨いていた。
まるで愉しみがそれしかない人のように夢中になった。

どれぐらいぴかぴかにすれば父は満足してくれるだろうと
ちいさな頭を働かせながら、手元が上下に動く。
しばらくして用事を済ませて戻ってきた父はわたしを見て驚いた。
それがあんまりにも新品のように磨きあげられていたからではなく
まだそれをおまえはやっていたのか?というなかば呆れた声だった。

わたしはいまだにこの癖がぬけない。
もう雨はあがったのにいつまでも傘をさし続けていたり
いつまでも鍋のなかのあくを掬い続けたりときりがないほどだ。
いちにちの出来事を1話完結にできなくて
いつもコンマ、コンマとつづいていく日々が時間のつらなりが
こよなく好きなのだ。

じゃれ会うようにくっつく休日のみしらぬ父娘を見ていたら
あの日父にいわれた呆れ声が、遠いなつかしい出来事のように
だしぬけによみがえってきた。

みかんとお魚のおいしい町で暮らしている父へ
おとうさん、今日もお元気ですか?

       
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