その三七








 







 











 

てのひらを じっと置いてる にゅーすぺーぱー

あなたのからだのなかにも地軸のようなものが
あったとします。
たぶんわたしのなかにもそれはあるのでしょう。

いつもは目に見えなくてそんな軸があることにも
気づかずに暮らしているのに
ふとしたことでその存在に気づいてしまうときがあります。

昨日は日曜の新聞でそれに出会いました。
未知の本を読者に紹介するときに
いちばん扉のすぐ前に立っている評者のひとつのことば。
それは文章のなかで幾度となくくり返されて登場するのですが
一冊の本の色を貫くようにくさびを打っている
そんなよく知っているはずのみなれた熟語に
響くものがありました。

愛想のなかった印刷されたことばがしらずしらずのうちに
響いて聞こえてくるそんなときわたしは
じぶんのなかに生えている軸を感じます。
すっごくおおげさに言います。
それがまっすぐきょうも立っていると確認できることの
よろこびで一瞬が満たされるような感じがします。

つかのま空に浮かぶ虹を見上げたような感じに近いのかもしれません。

まったく反対にそんな軸がぶれてしまうのは
まだ踏み入れたことのない世界をみせられて
おろおろしてしまうとき。

たとえばその表現者の軸はきっと確固たるものなので
しっかりと聳えているようなのですが
こちらのそれは途端にぶらぶらと中心線を失ってしまいます。

この世のものとは思えないことばの連なりにであったとき
明るすぎて眩しいぐらいの風景に染まりそうなとき
もうどれもこれもぜんぶわたしの軸はゆらゆらと揺れて
溶けてしまいそうになるのですが

じぶんの軸がゆらぐときもぜんぜんだいじょうぶなときも
ひとつとしてひとりでは発見する事のできない
そんなあたりまえのことに
きのうきづきました。

あなたがいるからわたしの軸はちょっと表情をつくるのです。
いちばんちいさな情報の単位のように
わたしにお知らせしてくれるのです。

あなたのからだにもそんなひとつの地軸がそこにあるとして
たとえばそれがどんなときにゆさぶられたり
ゆるぎなくなったりするのか
とつぜん知りたくなりました。

ロフトの階段をのぼってなつかしい匂いのする箱のなかで
どこまでもほほえむあなたの写真をみつけてしまったときのように
わたしは知りたくなりました。

       
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