その四五






 







 










 

地図の上 裏っ返しに 眠ったせいです

おちてゆく夢をよくみる。
とにかく底はどこにもなくて
ひたすらにおちてゆくのだ。

下降するときの風の心地よさと
どこに連れていかれるかわからない
スピード感がもたらす不安がないまぜになって、
わたしはだまったままよろこんでいた。

よろこびながらもわたしはまちがっている場所が
ほんとうにわからないから
いいかげんそのことを教えてほしいと泣きながら
おちていた。

だれにいっているのかは
わたしは知っているのだけれど
そのひとはなにげなく
どこかを仰ぐようにおちゃめに鼻歌を歌っていた。

そばにはいないのに
その歌声はいつも耳のそばで聞こえる。
音が遠くに隠れそうになっても
けっして止まない鼻歌だった。

そうやってわたしは性懲りもなく
おちてゆくのだ。
誰かが手を引き上げてくれるわけでもなく
ひとりでおちてゆく。

あぁ、なんだ夢か。
と思うのは洗濯のあと
朝のクラッカーをかじって
コーヒーをひとくち飲んで

つぎにアセロラジュースを飲もうと
ちいさなパックにストローを
ぷちっとさしたときだった。

このストローは底に触れないように
泳がせなければいけないと注意していたとき
感覚があたたかく巻き戻された。

もういちどふらりとおちたいとわたしがのぞむと
ふいに耳のそばの鼻歌が聞こえる。
どっちが夢のつづきなのか、教えてはくれないけれど
まだおちつづけているじぶんをぽとりとみつけて
わたしはふわっと両手をあげてみたくなった。

       
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