その七七






 







 























  あのひとを 横抱きにして 月夜の丘へ

台所にある青いガラス瓶に挿してある
ミニバンブーが、天井に触れそうになっていて

ちょっとかわいそうだなぁとも思ったのだけれど

わざとみてみぬふりしているあいだに

天井をつきぬけることなく
涼しい顔で横に逸れてゆき
たくさんの笹がやわらかく揺れながら

ひとり竹林を演じています。

根っこのひげがものすごく茂っていて

食器を洗うときに花瓶の底をのぞくと
うずまく生命力みたいなものに
いやおうなく触れて、
みたとたんに、その元気よさに
やられてしまうのだけど。

これを買ったときに雑貨店のおねえさんは
云ったのだ。

そんなには育たないと思いますよ。
ひと節ふた節ぐらいは大きくなるかもしれませんけど。
そしてふふっと笑った。

わたしもつられてふふっと笑って

家に連れて帰った。

いちどは出窓で凍えそうに死にかけていたのに
場所を替えた途端に育ちだして
育ってゆくことがふつうになってしまったので

放任していたら天井すれすれになっていたのだ。

気がついたら枯れていたっていうのではなくて
気がついたらひとりのびのび成長していた
ミニバンブ−は、これからもこのまま
たのもしい方角にはじけていってほしいと思う。

なんだかよくわからないのだけれど

うっかりしんでもらっちゃこまるのだ。

ひょうひょうと風に揺れ、
せつせつと水を吸い上げ
髭をたくわえながら
ごつごつした健やかさのまま
わたし好みに生きていってほしいと
願いつつ。

いつかわたしに笑った店のおねえさんの
ふふっていう笑みを
思いだしてわたしも笑いたくなってしまった、
遠雷の聞こえる午後です。
       
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