第二回酒折連歌賞 大賞・佳作選評

大賞 (問、四「星ひとつゆらりゆらりと夜のぶらんこ」)
暗闇が樹の形してさわさわと鳴る   竹内睦夫
 

樹(き)の形をした暗闇、しかも、さわさわと鳴る暗闇、という表現 に、鋭い迫力があります。それはさらに、夜の公園のブランコにひとり 揺られながら見る星と対比させた付合(つけあい)によって、「孤独」 そのものの表現にまで到達していると言えるでしょう。入選句にも、同 じ竹内氏による「新緑をホルンに映し鼓笛隊ゆく」(三の片歌に対する 答え)という明るく透明度の高い作品があって、絵画的な造形感覚にす ぐれた作者であることがうかがわれます。

佳作 (問、三「この町にふらっと降りて歩いてみれば」)
観覧車時を刻んでまわる青空   松浜夢香
 

青空を背景にまわっている観覧車、それはまるで時計のよう、という 見立てに、まず意外性があります。そして、問いの片歌からつなげてみ ると、かつて知っていた町をふたたび訪ねた人物の、こころの中の時間 の経過が「観覧車」の回転に象徴されており、現実的視覚と心理的感覚 を二重写しにした鮮やかな描写となっています。

(問、三「この町にふらっと降りて歩いてみれば」)
過ぎし日に置き去りにした思い再び   内藤麻衣子
 

忘れていた感情、もしくは封じ込めていた感情が、何かのはずみに生 き生きとよみがえる、という微妙な心の動きを描くことに成功していま す。「置き去りにした思い」の表現に、思い出の甘酸っぱさが感じられ ます。また、ある町のたたずまいが人の心の過去を呼びさますきっかけ になったという付合(つけあい)が、余韻ゆたかです。

(問、四「星ひとつゆらりゆらりと夜のぶらんこ」)
動いたねおなかの赤ちゃんみんなで待ってる   伊藤紘美
 

問いの片歌を「星がぶらんこしている」意に読みとり、そのように遊 んでいる星を、もうすぐ生まれる赤ちゃんと見なして付けています。そ の比喩の関係が秀逸で、さらに、「みんなで待ってる」というやさしさ が暖かく、誕生の待たれている子供の幸せなさまが思われて、読む者ま で幸せな気持ちになります。


第二回酒折連歌賞総評

第2回の酒折連歌賞には、昨年の倍ほどの数の応募がありました。と くに、県内・県外の中学・高校からまとまった作品が寄せられ、しかも この「片歌(かたうた)問答の付合(つけあい)」という特殊な形式に ついて、おおむねよく理解されていたことには感心しました。関係各位 のご協力とご指導に、深く感謝申し上げます。  課題である問いの片歌によって応募作品の雰囲気や傾向が変わるのは 当然ですが、第1回にくらべて今回は、総体的に応募者自身の経験や個 性から詠み出された作品が多く、固い標語めいた作品は少なくなったよ うに思います。  またそれは、答えのポイントの多様化ということでもあります。  五七七の答えの一句の表現に魅力がある作品もあれば、問いの片歌と の関係に作意を凝らした作品もあり、もちろんその両方に気を配ってい る作品もありました。選考にあたっては、一句の表現、付合の機知、ど ちらか一方だけでもすぐれていると認められる句は選に入れるようにし ました。しかし、大賞・佳作・入選となりますと、おのずから、両方の 要素のうまくかみあった作品が選び出される結果 になりました。  あたらしい世紀を迎えた現在も、依然として俳句は膨大な数の作者に よって支持されている文芸ですし、また連句も、インターネットの普及 などを通 じてじわじわと愛好者を増やしています。片歌問答である「酒 折連歌」においても、俳句が築き上げてきた表現の世界や、連句で経験 的に説かれてきた付合の技術から学ぶべきではないかと思います。  たとえば、今回の応募作品の中には、古典連句において「俤(おもか げ)の付け」と呼ばれる技術を用いた答えがいくつか見受けられまし た。それは、特定の人物や物語を下敷きにして付合に奥行きを持たせる 手法です。実際に「俤」による複数の作品が次点に選ばれていますの で、探してみてください。  そのように先人の蓄積を応用することも、作品の幅を広げてゆくため に有効なはずです。また、そのことによって、答えの句を苦心してひね り出すばかりではなく、付合という文芸形式を楽しみ、いわば「問答を 遊ぶ」ことも可能になるのではないでしょうか。

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