その三〇二

 

 






 







 






















 























 

主語もない しじまの丘は 空をまとって

階段をのぼったところの白い壁にかけてある
一冊のカレンダー。
おおみそかを過ぎて数時間後、それをゆっくりと
めくるときが、ここ5年ぐらいの間のささやかな
楽しみのひとつになっている。

SEIHASHIMOTOさんという方の素敵な油彩。
毎年、彼が住んでいらっしゃるパリの街角が
描かれていて、ふいに絵の中にでも迷い込んだ
かのようにどきどきする。

今年の1ページ目は、ページをめくったとたん
目に飛び込んで来たのは、青色に染まった
サクレクール寺院の塔だった。
塔のいちばんとがったところだけ白く光りが
差している。
寺院の全体を包みながらそこに続く空は、緑が
隠されたような青にもみえるなって思っていたら
モンマルトルの丘のあたりが、深い緑の樹々に
囲われているのが見えた。

<パリのてっぺん モンマルトルのそのまたてっぺん
サクレクール寺院の塔の先に朝日があたり
新しい1年と1日がはじまる>

いつも1枚1枚に短い文章が綴られていて、
そのことばを味わうのも、ほんのつかのまの
よろこびになっている。

青く描かれた空も寺院も、肺のなかまで澄んで
しまいそうな、鮮やかな緊張感がみなぎっていた。

この間、朝早い時間に窓を明けた瞬間、明けの明星を
みつけた時、あらゆるものから音も色もそがれたような、
とがった空気のようなものを感じた時と、とても似ていた。

自分の目の中に、おなじ光景を映し出した事はなかった
はずなのに、ちょっとした既視感を覚える。
そんないちねんのはじまりにふさわしいカレンダーの
一枚に出会えた。

今年もうたたね日記をどうぞよろしくお願い致します。
ちいさなおしらせですが、つたない日々の出来事を
連歌でつづるこの「うたたね日記」も今年の3月までと
なりました。

ラストランまであと8回ほどですが、がんばって
走り抜けたいと思いますので、よろしかったら
さいごまでおつきあいいただけたら幸いです。

2011年がみなさまにとって、すてきな瞬間が
訪れる幸せな1年でありますように・・・。

       
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